仲間と造る W/ Flora Fermentation
仲間シリーズの一環で、KBCのOBOGたちと再会し、ビールを造るサブ企画。その中で、これまで奈良醸造のヤスさん(ミルクスタウト「二都物語」)、家守堂のヒロコさん(バーレーワイン「狐火」)、Ape Brewingのまっちゃん(スペシャルビター「〼〼ハ〇」)とコラボしてきました。
さて、次は滋賀県でFlora Fermentationという醸造所を起ち上げたカイと一緒に、ヴァイツェンボック「ぼくぼっく」を造りました。この機会に、私たちとカイの出会いとこのビールにまつわるストーリーを紹介します。
さかのぼること2023年の初夏、私たちはミッケラー主催の Keep Pouring Nipponというビアフェスに出店していた時のこと。一人の男性が私たちのもとに来て言いました。 「私はこれから他の2人の仲間と一緒に、滋賀でブルワリーを立ち上げる予定です」 そして、彼は、そのブルワリーの名前をFlora Fermentationにするつもりだと教えてくれました。聞くと、醸造所起ち上げの計画と準備を進める間にメンバーはそれぞれが違う場所で経験を積んでんでいるとのことで、1人は奈良醸造、もう1人はHINO BREWING、そして最後のメンバーは最近海外から日本に越してきたところで、国内のブルワリーでの仕事を探していると知りました。
その人が後に、京都醸造に助っ人として入ってきたカイ(Kai Neubauer)でした。カナダ生まれ、カナダ育ちで、日本に来るまではバンクーバー近郊にあるS&O( Steel & Oak )というブルワリーで働いていました。S&Oはドイツスタイルのビールを得意とし、これまで多くの評価を得てきた著名なブルワリー。カイは醸造学校を卒業後の3年間をそのS&Oで過ごし、たくさんの経験を積んできました。
しかし、同時に彼は日本に移り住むことも考えており、機会を模索していたそうです。そんな中、縁あってFlora起ち上げの話が舞い込み、順風満帆でS&Oから新規事業のスタートアップにとりかかる予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響でバンクーバーのクラフトビール業界が大きな打撃を受け、その混乱の中で、カイは当初の予定よりも早く日本へ来ることを決断しました。
そして、私たちの元に、とても有能で元気なブルワーが仕事を探しているとある友人から相談を受けたのはちょうどその頃でした。京都醸造では、(現Ape Brewingのブルワー)まっちゃんが退職し、さらにチームリーダーの歩が育休に入る予定の最中で、経験豊富なカイがすぐに即戦力として加入してくれるのは願ったり叶ったりの、まさに絶好のタイミングでした。
カイがどんな人物かと一言で表現するとすれば、電球が部屋を明るく照らすように、持ち前の明るさとジョークで生産現場を盛り上げ、彼がいるとどこかから皆の笑い声が聞こえてくるような、貴重な存在でした。さらに、現状をより良くするための改善を推し進めたいという意欲を強く持っています。若さゆえに常に新しい刺激を求めているところがあり、ちょっと飽きやすいところは玉に傷でしたが、それでもその推進力は人一倍光っていました。
そこで、彼の特性を活かし、他のスタッフが避けがちなプロジェクトを任せてみることにしたところ、モルト貯蔵室の収納量を以前の倍に改善したり、缶や箱、イベント用資材、醸造設備が混然一体となる倉庫の整理整頓に着手し、こちらもまた以前の倍以上の収納ができるようにしてくれました。
その後、彼に任されたのが、パッケージング(缶や樽の充填作業)。私たちが使うカナダ製の缶詰ラインは、機械にもかかわらず、機嫌よく動いてくれる日もあれば、何をやっても上手くいかない日もあるという、まるで荒ぶ予測不可能な獣のような存在です。そんな単純ではない環境こそ、カイにとっては絶好の機会だと私たちは考えました。 彼は、缶詰ラインの技術者がカナダから来日するタイミングを折衝し、長らく必要とされていたメンテナンスとオーバーホールの指揮を執り、その結果、獣を上手く手なづける術を私たちに与えてくれました。そうした活躍も含めて、想像しにくい数字かもしれませんが、彼のもとで京都醸造のビール約100万本が充填され、世に送り出されたのです。(すごいね、カイ!)
その後、いよいよFloraの起ち上げに集中することを理由に、京都醸造は昨年、彼を涙とともに送り出したのですが、こうしたコラボ企画で再開し、一緒にビール造りができたのがとても嬉しいことです。
醸造をスタートさせたばかりのFloraは、今後どのようなビールスタイルを中心に展開していくかはまだ定めず、さまざまなスタイルに挑戦しているところです。(最近彼らが造ったビールを挙げると:Pukwudgie Juicy IPA、コーヒーチェリー(カスカラ)を使用したデュンケル 、ブドウ搾りかすを使用したセゾンなど幅広いジャンル)
国内市場の競争が日に日に激しくなってきていますが、滋賀県内にはまだ醸造所が少ないこと、そしてFloraの創業者3人がそれぞれ異なるブルワリーで経験を積んだことを考えると、地域の人にこれまでにはない幅広いスタイルのビールを体験してもらう良い機会になるはずです。
さて、では今回彼らと一緒にどんなビールを造ろうかと話し合う際、カイがS&Oで培った経験に立ち返り、ドイツスタイルのビールを醸造するのがいいのではないかという意見に至りました。
2月のリリースということも考慮し、ドリンカブルというよりは、しっかりめのボディ感を楽しめるビールを選ぶことにしました。また、最近、京都醸造は「豪傑」3部作などでホッピーなビールを造ることが続いていたため、このコラボではモルトの風味を主体としたビールにすることにしました。そこで選ばれたのが、ドイツの小麦ビールのひとつ「ヴァイツェンボック(Weizenbock)」。
Floraは、ただ単に運ばれてばれ材料でビールを造るというだけでなく、その原料となるホップや麦などを自らの手で栽培するという大きな試みに挑戦しています。今回のビールにはドイツ産のホップに加え、滋賀県で栽培されたカスケードホップを使用しました。この国産ホップがビールに心地よい苦味と、何ともご機嫌なフローラルやシトラスの香りを与えています。小麦の柔らかさにホップの個性、そして本場のヘーフェヴァイツェン酵母が生むフレーバーがたまらないヴァイツェンボック「ぼくぼっく」が仕上がりました。(2/11京都醸造オンラインショップにて発売、2/14発送開始)
Floraが、これから素晴らしいビールを無事に世に送り出し、急速に変化するクラフトビール業界ですが、その中でしっかりとFloraらしい存在感で足場を築いていけるよう、心から応援しています。