仲間と造る W/ Yatsugatake Brewery Touchdown
新たなフロンティア
赤石山脈、別名「南アルプス」の麓に位置する標高1200mにある清里という町にある八ヶ岳ブルワリーは、日本でも有数の美しい自然に囲まれた醸造所かもしれません。

私たちは、5月28日から埼玉で開催される5日間の大規模なクラフトビールのイベント「けやきひろば春のビール祭り」に向けてのコラボビールを、この八ヶ岳ブルワリーと一緒に仕込むため、4月も半ばに差し掛かったある日、清里に降り立ちました。
「ここには何もないよ!」
駅まで迎えに来てくれた醸造責任者の宮下さん(以下、愛称の”てんつうさん”)は開口一番そう言いました。確かに京都の、それも人が集中して住む街の中の醸造所から来れば、そこには大自然しかない、と言えるかもしれませんが、それが私たちにはとても贅沢なことのように聞こえました。

八ヶ岳ブルワリーを営む萌木の村は、複合型の観光施設で、敷地内にはヨーロッパの落ち着いた村のような雰囲気の建物がたっており、その一部であるレストラン「Rock」は1971年の開業以来、多くの人々を惹きつけて、非常に大きな成功を収めています。他にも、 森の中にゆったりと佇むクラシックな雰囲気のホテルや、手織りの布や木工を体験させてくれるような施設もあり、特別な場所と時間を提供されています。クラフトビールを造る八ヶ岳ブルワリーTouchdownもその一部として運営されています。
聞くと、この町の歴史はそう古くなく、わずか100年ほどだそうで、私たちは現地で少しずつ清里について学びながらの滞在になりました。20世紀初頭に、多くの人々が居住地を求める中で清里の開発が始まり、1933年の鉄道開通が転機となって、発展が加速。さらに、1925年の関東大震災の災害支援のために来日していたアメリカ人宣教師、ポール・ラッシュという方の尽力によって、清里エリアの開発が本格化します。彼は酪農や農園の事業を立ち上げ、これが現在に至るまで地域農業の基盤となっています。また、彼はアメリカンフットボールも日本に紹介した人物としても知られ、それにちなんでこの醸造所の名前には「八ヶ岳ブルワリー”タッチダウン”」とアメフトに関係するワードが付けられることになったのです。

てんつうさんとのタッチダウン
八ヶ岳ブルワリーはレストランの中心部に設けられているため、店内からもガラス越しに製造スペースが見えるつくりになっています。食事しながら醸造所内が見えるのと同時に、中からもレストランがよく見えるのですが、私たちがビールを仕込んでいる間に、まるで街の人気店のような大きなレストランが開店と同時に満席になり、入口から駐車場まで長蛇の列ができている光景には驚かされました。
そんな人気店に併設されたブルワリーのヘッドブルワーであるてんつうさんは、日本のクラフトビール業界で間違いなく最も知られた顔のひとりと言えるでしょう。彼の派手なファッションと同じくらい個性的な彼のキャラクターは、一度会ったら忘れることはありません。長年にわたり山梨県のもう一つのブルワリー、富士桜高原麦酒の顔としてヘッドブルワーを務めてこられ、そして、昨年に新たな挑戦として八ヶ岳のヘッドブルワーとして就任し、ドイツビールの豊富な知識と経験を持ち込み、ビール造りを続けていらっしゃいます。

先生が生徒に!?
これまで醸造家としてのキャリアのほとんどをドイツスタイルのビール造りに捧げてきたにもかかわらず、てんつうさんは今なお新しいことを学び、挑戦することを楽しむ方です。そんな彼の一貫した姿勢に感銘を受け、何年も前から、いつか彼とコラボレーションしたいと話してきましたが、ようやく今年の「けやき」で同じブースをシェアすることが決まり、念願叶ったのです。
さっそくコラボの内容の話になり、彼から「京都醸造が使うハウス酵母であるベルジャン酵母を使ったビールを造ってみたい」と希望があがりました。その後も話を続けていると、てんつうさんにとって「人生で初めて使うベルジャン酵母」であることがわかり、今回がその機会になったことをとても光栄に感じました。

私たちは、八ヶ岳側のコラボでは、ベルジャンウィットを造ることに決めましたが、単にすべてをKBCのスタイルでやるのではなく、もちろん八ヶ岳らしさをいくつか盛り込んだものにしたいと考えました。
ひとつは、彼らの使うドイツ製の醸造設備だからこそできる、ステップマッシングという製法。これは、麦汁を造る工程で温度を段階的に上げていくことで、麦芽内の複雑な糖を分解する特定の酵素を活性化させるものです。残念ながら、京都の設備にはそんなハイテクな機能は備わっていません。
もうひとつは「クロモジ」の使用です。クロモジは、クスノキ科の日本の在来種で、その木にはスパイスや柑橘のような独特な香りがあり、ベルジャンウィットによく使われるオレンジピールやコリアンダーシードの代わりに、和のアプローチとして使える素材です。こうした要素を盛り込んだ小麦のビール、ウィットを仕込みました。

では、京都側でどんなビールをてんつうさんと造るのか?
てんつうさんは、日本でも屈指のラガービールの造り手。彼の造るドイツの小麦ビール、ヴァイツェンは非常に人気があり、酵母からバナナやクローブのような風味を引き出す技術は群を抜いています。私たちもこれまでに何度かヴァイツェンを造ってきましたが、てんつうさんのようにエステル香とフェノールをしっかりと表現できたことは一度もありません。だからこそ、今回はてんつうさんという強力な守護神がいてくれるので、本気で挑戦してみたいと思いました。

また、少し欲張って、てんつうさんが提唱する新スタイル「ニューイングランド・ヴァイツェン」にも挑戦してみたかったのです。これは昨今のヘイジーIPAムーブメントに着想を得て考案された、大量のホップとヴァイツェン酵母由来のフルーティーさを融合させたスタイル。
そうしたことから今回私たちは、ドイツスタイルのクラシックヴァイツェンとニューイングランド・ヴァイツェンの2種類のビールを造ることにしました。
しかし、前述のとおり、私たちの設備では段階的な麦汁の加熱できないため、八ヶ岳のような「ステップマッシュ」をどう再現するかが課題だったのですが、私たちのヘッドブルワー、ジェームズが釜の中で麦汁を循環させながら段階的に加熱と停止を行う方法を考案し、ステップマッシュに似たような効果を狙うことにしました。
さらに、ダブルファーメンテーション(二段階発酵)というてんつうさんの秘伝テクニックも取り入れました。最初の発酵では酵母にストレスを与えてクローブのようなフェノール香を引き出し、二次発酵ではより穏やかでクリーンな環境を作ってバナナのようなエステル香を出すというアプローチです。

2回の仕込みはほぼ同じレシピで行いましたが、2回目の仕込みではホップの使用量を増やし、八ヶ岳のニューイングランド・ヴァイツェン的なアプローチに、私たちのベルジャン+ホッピーなビールの要素を組み合わせることで、元々のてんつうさんのスタイルに少しKBCらしいツイストも加わり、これまでにないような納得のいく共作となりました。
そして、それぞれのネーミングには、自然豊かな南アルプス、八ヶ岳連峰のイメージや小麦を連想する「白」などを織り交ぜ、クラシックなヴァイツェンには「杯峰( Heigh-ho )」、 ニューイングランド・ヴァイツェンには「八峰( Ya-ho )」と名付けることにしました。


では、このコラボビールはいつ飲めるのか?
答えは簡単。「けやきひろばビール祭り」に行くのが一番!
けやき春のビール祭り 2025 は、5月28日(水)〜6月1日(日) にかけて、さいたま新都心・けやきひろば にて開催されます。私たちは八ヶ岳ブルワリーと同じブースで出店し、2種類ヴァイツェン「杯峰」と「八峰」はじめ、たくさんのビールを提供します。お隣の八ヶ岳側では、もちろん清里の醸造所で仕込んだコラボビールも提供されます!
また、京都のタップルームでも、5月30日(金)〜6月1日(日) で提供予定。
缶商品の発売は、
・杯峰(クラシックヴァイツェン):5月27日(火)よりオンラインストアにて販売開始(発送開始は5月30日)
・八峰(ニューイングランドヴァイツェン):5月31日(土)よりオンラインストアにて販売開始(発送開始は6月3日)
皆さんとこの陽気なヴァイツェンで一緒に乾杯できるのを楽しみにしています!
