満彩シリーズのアップデート

満彩シリーズは、数年前に「フルーツケトルサワー」のシリーズとしてスタートしました。

シリーズが発足することになったきっかけは、私たちが初めてのサワービールを醸造したとき、具体的に言うと、著名なビアライターであり、Heretic Brewing の創設者である ジャミル(Jamil Zainasheff) とのコラボレーションでした。「紫の人喰い(Purple People Eater)」という少々ショッキングなネーミングの、梅と赤紫蘇を使用したサワーセゾンをジャミルにいろいろ教わりながら造りました。

私たちは、当時甘すぎるビールを造るのがあまり好きではなく、また、「ビールがあまり好きではない人向け」に造られたフルーツビールに対して、少しか偏った考えを持っていました。

しかし、こうした仲間を通じたサワービールとの出会いが、私たちのフルーツビールへの考え方を大きく変えることになりました。

グーズーを造るベルギーのカンティヨン(Cantillon)や、樽熟成のサワービールを作る他のブルワリーが用いる複雑な製法とは異なり、乳酸菌をつかったケトルサワリングという製法のシンプルさを私たちはとても気に入りました。その理由は、果物の糖分が発酵によってしっかりと消費されるため、最終的に仕上がるビールがドライでありながら、非常に爽やかな印象をもたらしてくれるからでした。

日本ではレモンサワーなどのシンプルで炭酸が効いたお酒がムシムシした夏には特にぴったりで、昔から親しまれてきましたが、ケトルサワーはそのビール版のような存在と言え、たくさんの可能性を秘めているように思えました。

シリーズが始動して数年の間に造ったもののほとんどに想像以上の反応があり、昨年は、これまでで最も多くのフルーツサワーを仕込みました。その経験を通じて、何が上手くいくのかを学び、どの部分をさらに改善できるのかを知るとても貴重な機会となりました。

フルーツの魅力を最大限に引き出す
私たちはビールを造る際には、「繊細さ」を大切にしていますが、一方でフルーツサワーに関しては、果物の個性がしっかりと際立つことを重視したいと考えてきました。

ケトルサワリング製法は、酸味を引き出す優れた手法ではあるものの、時にはフルーツの魅力を十分に引き出せない要素が生じることもありました。ケトルサワリングとは、乳酸菌(ラクトバチルス菌)を煮沸前の麦汁に加え、発酵中も持続する酸味を生み出す製法。数年前から、私たちはフルーツとの相性を考え、時折ハチ由来の酵母でマイルドな酸味を生み出す製法を使うことがありましたが、昨年のある時期からは、Philly Sourという別の酵母を導入しました。この酵母は、よりクリーンで心地よい酸味をもたらし、フルーツ本来の甘い香りや味わいがより際立つ仕上がりになることで、大変気に入っています。

ケトルサワーからフルーツサワーシリーズへ
酸味を得る手法をよりフルーツサワーにフィットするものへと転々とし、その結果、最善の酵母(Philly Sour)に行き着き、要するに満彩シリーズは単なるケトルサワーシリーズからフルーツサワーシリーズへと進化したと言えるでしょう。

また、中にはフルーツ単体でも十分に風味を発揮できるものの、発酵が進むことで、本来の果実の特徴が薄れてしまうものもあることに気づきました。例えば、仕上がりはクリーンで心地よくドライで飲みやすいものの、果汁を全体の1/3も使用している割に、思ったほどフルーツのアロマが感じられないというケースがありました。発酵後に甘味が残らないので、最終的にどのような風味が引き出されるかを想像しながらレシピを調整する必要があるというわけです。

そのため、単体のフルーツではなく、複数のフルーツをブレンドすることで、それぞれのアロマや風味が融合し、補完し合い、より魅力的な味わいを生み出せるのではないかという考えに至りました。

そこで私たちが出した結論として、フルーツサワーの種類を見直し、果実やビールの魅力を十分に引き出せていなかったものはラインナップから除き、今後も残すものに関してはレシピを刷新し、より完成度を高めることにしました。

新しい形のフルーツビール
最初にアップデートを施したのがリ昨年出してた 「○のち△」。これは柑橘の持つ 「苦味・酸味・甘味」 の3要素をバランスよく表現することを目指した、柑橘ミックスフルーツサワーです。

昨年初めて仕込んだ際、意欲的なレシピでしたが、ライムリーフや柑橘皮の風味が思ったほど際立たなかったという反省点がありました。そこで今回は、グレープフルーツとオレンジの大量の果汁に加え、使用する皮(ピール)の量を大幅に増加。その量なんと乾燥で40kg超え!(ちなみに、今までの最高量は20kgなので、今回がいかにクレイジーな量でかは想像に易しいでしょう)。

使用した柑橘ピールの組み合わせは、
・定番の柚子
・オレンジのような風味が特徴の伊予柑
・グレープフルーツのような爽やかさを持つ八朔

この中で八朔は特にお気に入り。これまで以上に個性的な仕上がりになったことに加え、ラベルデザインもアップデート。インパクトのある製品であることが手に取った人に伝わるように、デザインパートナーであるStout Collectiveの協力によって、視覚的にも柑橘、このビールが持つパワフルなキャラクターを見事に表現してくれたと思います。味もビジュアルもより解像度を上げた満彩シリーズ、ぜひお楽しみください!