仲間と造る W/ Nude Brewing

仲間シリーズの一環で、KBCのOBOGたちと再会し、ビールを造るサブ企画。その中で、これまで奈良醸造のヤス(ミルクスタウト「二都物語」)、家守堂のヒロコ(バーレーワイン「狐火」)、Ape Brewingのまっちゃん(スペシャルビター「〼〼ハ〇」)、Flora FermentationのKai(ヴァイツェンボック「ぼくぼっく」)とコラボでビールを造ってきました。

さて、今回は京都の北部、北山杉の木立が美しい京北でビール造りをするKyoto Nude Brewery(以下、Nude) とのコラボです。ここで醸造を担当する上甲博之さん(じょうこう ひろゆき、通称JK)は、もともと京都醸造の初期のころからビール造りに携わっていた私たちのOB。さっそくJKとのビール造りの話をしたいのですが、その前にNudeで大きな夢を叶えたオーナーの白石拓海(しらいし たくみ)さんとのエピソードをお話させてください。

さかのぼること2015年の3月、オープンしてわずか1週間ほどだったクラフトビアバー、Takumiyaのオーナー白石さんが、同じくまだ産声を上げる前のだった私たちの醸造所を訪れてくれました。どこかで京都醸造がまもなく開業すると聞きつけ、さっそくビールを仕入れたいと話しに来てくれたのです。

ただ、彼はアポもなく、突然現れ、ありとあらゆることを根掘り葉掘りと私たちを質問責めにしたと思ったら、どこか素っ気ない態度を取っていたので、その時の彼に対する印象は、正直あまり良くありませんでした(笑)

しかし、せっかく京都醸造に興味をもって来てくれた未来のお客様になるかもしれない彼を追い返すわけにもいかず、(当時はまだ製造免許も取得できていませんでしたので)まだビールの無いブルワリーをひとまず案内することにしました。その流れで、その日の夜、彼のクラフトビアバー、Takumiyaへ足を運ぶことにしました。(当時、京都市内でクラフトビールを提供していたお店は、このTakumiyaを入れてまだ7軒しかありませんでした。)

当時、彼は弟と親友である高野さんと一緒にお店を切り盛りしていました(その高野さんは、現在素敵な奥さまとともに、少し離れた場所でシードル専門のバー「リンゴ酒場Swingin’ 」を経営されています。とてもいい店です!)。白石兄弟のひねりの効いた少々ドライなユーモアと、高野さんの作る美味しい料理、そしてそこに集まる様々なタイプの人との和やかな掛け合いが相まって、この店の雰囲気はとても素晴らしいものだと感じました。お店でリラックスしながら、ワイワイと楽しんでいるうちに、白石さんに対する印象は最初抱いたものからすっかり違ったものに変わっていました。

そうこうしているうちに、京都醸造も製造免許を得て、ビール造りを始めることができ、創業初期の頃は、ばたばたと目まぐるしい日々を送っていました。それを見かねた白石さんは、とても親身に私たちのサポートをしてくれ、市内へビールの配達に行ってくれたり、会社の業務で車が必要なときに自分の車を貸してくれたりと、ありとあらゆることにまで快く手を差し伸べてくれました。そして、その間に彼のバーも、クラフトビールファンがこぞって訪れる名店になり、みるみるうちに1店舗から4店舗へと成長していきました。

そんな彼が、ずっと夢見ていることがありました。それは、自分たちのビールを造ること。長い間したためていた彼の夢が、ひょんなタイミングで実現することになったのです。コロナが猛威を振るいだした頃、その影響で街から人が消え、全国の飲食店・ビアバーが大きな影響を受けました。白石さんの経営するTakumiya始め、すべての店舗も経営が難しい局面を迎えていました。普通なら従業員を切り捨ててまで、なんとかこの前代未聞の嵐を耐え抜こうとするところ、白石さんは違いました。常に状況を前向きにとらえ、仲間たちと料理のケータリングを計画するなど臨機応変に、できることをやる!というスタンスで闘っていました。そんな彼に吉報が届きます。国からの大きなサポートを得て、長年の夢である醸造所立ち上げの話が動き出したのです。当時、世の中は新型コロナウイルスの渦中、陰鬱と沈んだ雰囲気が立ち込めていたものを一蹴するようなこのニュースを、一緒に喜んだのを記憶しています。

2023年、ついにKyoto Nude Breweryが始動。そのヘッドブルワーには、元KBCメンバーの JKが就任し、彼らにしかできないビール造りを始めました。彼が得意とする度数の低めで親しみやすいビールにフォーカスした醸造所として、ファンを増やしています。

では、このコラボレーションで、どんなビールを造ることになったのかについて話を移しましょう。かつてJKが京都醸造でビールを造っていた頃、台湾のTaihu Brewingとのコラボの機会がありました。Taihuは、カクテルからインスピレーションを受けたビールを得意としていたため、こちらでは、ブランデー・オレンジリキュール・レモンジュースを使う伝統的なカクテル 「サイドカー」 をベースにしたビールをつく造りました。思い返せば、このコラボはコロナが猛威を振るう直前に行われ、その後ながらくはコラボを休止状態になりましたので、すごく遠い昔のことのように感じます。(また、JKにとっても京都醸造での最後のコラボになりました。しかし、この経験がJKにとって強く印象に残るものとなり、今回のコラボを話し合った際に、「あの時のテーマでもう一度やりたい」 と打ち明けてくれました。

そこで、京都醸造側のコラボとしては、ヘッドブルワーのジェームズが長年カリフォルニアで生活し、ビールを醸造してきた経験から、その地域(アメリカ西海岸)で親しまれている食材や味わいを取り入れることにしました。そして、カクテルをベースにビールに転用するなら何が面白いかと考えたとき、「パイナップル・マルガリータ」 が候補に挙がり、これをテーマに挑戦することに決めました。

このカクテルのベースとなるのは、パイナップルジュースとテキーラ。そこに トリプルセック(オレンジの果皮で作られるリキュール )と搾りたてのライムジュース を加え、甘さを和らげつつ、爽やかな酸味をプラスします。仕上げに、ライムでグラスの縁を湿らせ、タヒン(Tajin)にディップします。タヒンは、チリペッパー、乾燥ライム、海塩をブレンドしたユニークの調味料で、甘さと酸味、スパイシーさ、塩味が加わることで、味わいが層になって食材の美味しさを引き立てる効果があります。

これを使ったマルガリータは、最初の一口で、甘さと酸味が前面に出てきますが、その後に塩の旨味、唐辛子のスパイシーさ、テキーラの土っぽさが折り重なるように広がっていきます。私たちは、このビールにマルガリータと同じような特徴を詰め込みたいと考えました。

こうしてできたマルガリータゴーゼ「陽の用心(ひのようじん)」は、パイナップル・海塩・ライムから来る甘味と塩味と酸味が絶妙に混ざり合い、その上チリペッパーがほのかなアクセントになり、いつまでも心地よく余韻が残るような印象に仕上げています。開放的な浜辺でよく冷えたマルガリータをするすると楽しむように、ぜひお楽しみください。

一方、Nude側では、ミントチョコレートを思わせるゴールデンスタウト「月の浦(つきのうら)」を造りました。少しシックで落ち着いた雰囲気のカクテルをイメージしたビールです。「陽の用心」のリリース時期は、ちょうどTakumiyaの10周年ウィーク(3月8日から3月14日)。京都近郊にお住いの皆さん、ぜひTakumiyaに足を運び、賑やかなお店の雰囲気を楽しみながら、今回のコラボビールもお楽しみください!