私たちが考える京都のビール - はばかりさん

今週、京都府下限定で新たにお目見えしたベルジャンウィット「はばかりさん」は、京都醸造初の常温で保存可能なクラフトビール。これまでの1年ほどで、缶内二次発酵商品を集中的に造ってきましたが、このはばかりさんはその試行錯誤の末の集大成と言っていいほどの自信を持ってリリースしました。

ご存じの方も多いと思いますが、二次発酵製法というベルギーの伝統に沿って造られたビールにはたくさんのメリットがあります(これについては、後ほどしっかり触れたいと思います)。そこに、新鮮な柚子皮と質の高い乾燥実山椒を使用することで、伝統的なウィットというスタイルに日本的というよりも、むしろ京都的なツイストを加え、このビールでしか味わえないフレーバーを、ぜひ京都で楽しんでもらいたいというメッセージを込めました。

私たちの京都という街に対する特別な想いについては、これまで何度となく書いてきました。それは、醸造所を始める前から、なぜ京都でビール造りをするの?と多くの方から問われてきたことにも通じるものですので、「はばかりさん」発売のこの機会に改めて、お話したいと思います。

なぜ京都?
京都にクラフトビールの醸造所を開業することを決めたのは、単刀直入に言うと純粋にこの街の魅力にひかれたからです。創業者それぞれが何らかの形でこの街との最初の縁を持ち、訪れてからもその魅力に引かれ続け、この街に住みながらビール造りをするイメージを共有していました。その後、京都でクラフトビール醸造所を開くことが理にかなっているのか、開業前からさまざまな要素を検討してきました。

まず、現代に至るまで職人が息づく京都では、手仕事への評価基準が高く、それにこたえる技をもった職人さんが街を作ってきました。つまり何百年も続くクラフトな街であるというところから、クラフトビール業界との親和性を見出しました。そして、この職人の技は料理の世界でも、独自に発展と洗練を繰り返し、厳選された食材の持ち味を活かしながら、工夫や感性を織り込み、丹念に作り上げる京料理は芸術の域に達するものです。本格的といえど、派手さや贅沢さを追求するのではなく、本質的な魅力とさりげなく普遍的の美、いわば「ほんまもん」と呼ばれるものを長く大切にしている点もこの街ならではの特徴に挙げられます。そんな街に刺激されながら、本格的なビール造りをするというところも私たちがこの場所を選んだ理由のひとつです。

京都醸造という名前に込められた戒め(?!) 
私たちが会社名にこの街の名前をそのまま付けるという選択は、軽々しく行ったものではありません。実際、他の何十もの候補を検討し、社外のか方々にも相談した結果、ひとつの結論に至りました。私たち自身が本物であろうとする限り、またこの街にふさわしくあろうとする限り、京都という名前を使わない理由はないと。それ以来、この京都醸造という名前は、私たちが高い基準に応え続けるために、道を踏み違えず、本物を目指して努め続けるんだよ、というようなプレッシャーを与え続ける手段となっています。

京都のためのビール
京都のためのビールを作るというアイデアは、創業初期からずっと抱いてきました。そこには、京都に住む人々やこの街を訪れる人々に対して、私たちができること、つまりこの場所に根差したビールを提供したいという思いがありました。しかし、それだけが理由ではありません。

もう一つの理由は、私たちがビール造りをスタートして以来、クラフトビールを提供するバーが京都市内にたくさん開業していて、人口比で見てみると国内随一のビアバーが多い街と言っても過言ではありません。一方で、小売店におけるクラフトビールの普及は、関東のそれに比べて大きく遅れているというのが現状です。また、一般的な飲食店のメニューにも、クラフトビールというチョイスはなく、あってもあまりクラフトビールとは言えないものが多く見受けられるというところにも大きなギャップを感じています。

本物志向の京都では、食材へのこだわりだけでなく、そこで提供されるワインや日本酒、ノンアルドリンクにもお店や店主のこだわりが感じられることが多いのですが、どうしてか提供される生ビールはたった1種類、または大手の瓶ビールが1〜2種類というのが実情です。私たちはこれを、「とりあえず」という概念が体現されたものだと感じており、京都に魅了された私たちが持つイメージとは相容れないものだと考えています。

どんなビールを作るべきか
これまでの数年間、ボトル・缶・樽内でビールを二次発酵させる手法、つまり発酵用の酵母と糖類を加えて、自然な炭酸を発生させる製造方法を、いくつかの製品で採用してきました。これは新しい手法ではなく、かつてベルギーを中心に、世界中でとられていた伝統的なビール造りの技法です。

この製造方法の何が特別かというと、多くの利点があります。

まず第一に、発酵によりビール内の酸素が消化され、少なくなるため、保存性が向上し、ビールがより長持ちします。 また、同じ手法をとるシャンパンやワインのように、時間とともにビールが熟成され、味わいの変化、深化を生むという効果も得られます。

さらに、二次発酵を行うことで、加熱殺菌(パスチャライゼーション)を行わずとも室温で安定して保存できる製品が作ることができると考えました。保存耐性をつける一方で本来の味わいを損ねてしまう加熱殺菌については議論が多いですが、二次発酵はビールの持つ本来の魅力を損なうことなく、むしろより良い味わいに仕上げ、ベルギービールの伝統に忠実な本格的なビールに仕上げることができると私たちは感じています。

こうした思いとともに、直近の1年ほどは、京都限定の二次発酵ビールをいろいろと造ってきました。すべて容器内で二次発酵を行った、ドリンカブルで親しんでもらいやすいスタイルのものです。これらのビールを通して、お客様の反応や、京都限定商品としてのスタイルの適性をみることができ、そのひとつの結果として、柚子と山椒を使ったベルジャンウィット、はばかりさん誕生に至ったのです。

はばかりさん
私たちは、ベルギービールらしさ、京都醸造らしさ、そして京都の名にふさわしい本物のビールを造るとともに、クラフトビールファンにも、これからクラフトビールを試してみようという人々にとっても魅力的に感じてもらえるビールに仕上げたいと考えました。

その結果できた「はばかりさん」は、その味わいの良さから京都の名前に恥じぬビールであると同時に、京都の洗練された料理文化にもしっかり寄り添えるようなビールを目指し、絶妙なバランスを狙って造られました。そうしたことから、長年ビールが置かれてきた壁を打ち破るような存在であってほしいと考えています。もちろん、街のクラフトビアバーで地元のビール愛好家や観光客にも楽しまれるだけでなく、まだクラフトビールに親しんでいない人々にも手にとっていただけたらと思っています。その先にどんな可能可能性が広がるのか、誰にもわかりません。

ベルジャンウィット
はばかりさんは、ベルジャンウィットというスタイルで、ベルギービールの中で最も人気のあるスタイルのひとつ。伝統的なベルジャンウィットは、アルコール度数4.5〜5.5%程度の比較的ライトな飲み口、淡い色合いとほのかな濁りが特徴です。たっぷりと小麦(「Wit」は「小麦」を意味します)が使われ、それによる柔らかな口当たりと、酵母由来のスパイシーでフルーティーな風味を楽しめるビールです。ベルギーの伝統的な製法では、これらの特徴を強調するために、コリアンダーシードやオレンジピールなどの副原料が加えられ、非常に軽やかでありながらパッと明るく個性豊かなビールとして知られています。

私たちは、これをそのまま再現するのではなく、京都ならではの食材を使ったひねりを加えたいと考えました。そこで、京料理などで香りのアクセントとして重用される柚子と山椒を使い、ビールに心地の良いフレーバーとともに、京都とのつながりを表現することにしました。また、このビールが京都でのフラッグシップ的な存在になることを目指しているので、副原料の状態や使い方に至るまでを徹底的に検証しました。それは、ビールがどのくらいそのフレーバーを維持できるかだけでなく、これらの材料の個性を最大限に引き出すことができるかどうかも重視しました。

まず、伝統的なチリメン山椒で知られる「たきものゑびす」さんを通じて調達した高品質な実山椒。新鮮な生のものと乾燥したものの両方をテストした結果、ビール中での耐久性や、柑橘系のニュアンスとハーブ的な要素がよりしっかりと表現されるのは乾燥山椒であるという結論に至りました。

柚子に関しては、果肉と白い皮(芯)を取り除き、丁寧にむいた皮のみを使用し、繊細な風味が飛ばないように、熱の影響を一切受けない製造工程で加えることにしました。

柚子と山椒をビールの副原料として使用するのは、私たちが初めてではありませんが、前例がないほどに最高の仕上がりを目指して、検証を重ねた結果に非常に満足しており、その後完成した「はばかりさん」を飲んだ人の反応を見るのが待ち遠しいです。

最後に『はばかりさん』とはどういう意味なのでしょうか?
『はばかりさん』は、京ことばで「お疲れさま」や「ごくろうさま」を意味します。私たちは、このビールが京都の飲食店で多くの人のグラスに注がれる一杯になり、京都を訪れる方が帰りの電車の車内で楽しむように手提げ袋に忍ばせ、またはクラフトビールに馴染みのない一般のビール愛好家がスーパーで手に取り、一日の疲れを癒すためのささやかなご褒美として楽しむビールになると考えています。そして、そうした体験から、きっと小さなきっかけと笑顔が生まれることでしょう。
『今日もおおきに、はばかりさんどした!』