2025年新シリーズ - HOP IDOL
新しいシリーズを始めるタイミングは、必ずしも新しい年の始まりと合わせる必要はありませんが、私たちはこれまでの習慣から、そのタイミングに新しいことを始めることが多いかもしれません。去る年に起こった良かったことやもう少しうまく出来たということも含めて、振り返りを行い、新年に大きな希望をもって変更や更新を行うというのは、誰にとっても至極自然なことと言えるでしょう。また、そのタイミングの所信表明で、これから訪れるであろう大きな変化に期待が寄せられる貴重な時期でもあります。
すでにご存じの方も多いと思いますが、2024年はKBCにとってとても大きな変革の一年でした。その変化は、元旦の夜に年替わるように一夜にしてぱんっと一瞬で起こるものではなく、一年という時間をかけて、この組織は変わってきました。そのため、2025年もひきつづき留まることなく、ゆっくりと変化する一年となるでしょう。今日は、その第一段として来年の新しいシリーズのひとつについてお話したいと考えています。
人気のあるビアスタイルIPAは、他のクラフトビール醸造所と同様に、私たちの造るビールのラインナップの中で重要な位置を占めています。しかし、いかにもIPAというようなスタイルや伝統的なアプローチは避けるようにしてきました。それぞれの季節に合わせたIPAを醸造する「気まぐれシリーズ」は、おそらく私たちが造るIPAの中で最もオーソドックスなものかもしれませんが、その中でも多様性を持たせています。
さらに「毬一族」というベルジャンIPAシリーズも展開しており、これはコンセプトの核となるベルジャンスタイルのIPAに、私たちの酵母とモダンなホップとの組み合わせ、相互作用を際立たせるものです。
もうひとつ、ここ数年の間で、毎年異なるコンセプトを決め、6つのIPAを造る単発のシリーズに取り組んできました。こうしたコンセプチュアルなテーマに基づいたIPAシリーズを展開する理由は、IPAの支持層が非常に厚いことに加え、現在ではIPAはもはや一つのスタイルではなく、より高度に発展した複数のスタイルの集合体となっているためです。
かつては、IPAと言えば、「香りがしっかりして、苦味がある」ビールと捉えられていたかもしれませんが、今ではそうとは限りません。むしろ現在のIPAは「ホップをたっぷり使用したエール」という意味合いにとどまり（Cold IPAというラガー酵母を使うスタイルもることから、もはやエールでもなくなってきている！）、それを象徴する要素であった苦味すら必須条件ではなくなってきています。つまり、ダークでもライトでもあり得るし、クリーンでキレのあるクリスピーなものから濁りがあって濃厚なものまで、ドライなものや甘みを残したものも、さらには酸味のあるものなど、現代のIPAの多様性は本当に幅広い。
私たちはそのコンセプチュアルなIPAシリーズで、五味（「酸」「苦」「甘」「辛」「鹹（かん） と「旨」の6つの味をIPAを通して探求する「六味六色」を造りました。また別の年には、ホップの産地である世界の異なる国々を取り上げたIPAシリーズ「六遊記」に取り組みました。その後、世界各地で生み出されるスタイルの進化の遍歴や、現在主流となっているホップボムのようなジューシーなIPAを生む技術を「六人の変革者」で探求しました。そして2024年は、果実をイメージしたIPAに挑戦するため、ホップの個性に近い果実を実際に使い、ホップとの組み合わせでユニークなIPAを醸造する「六果撰」を展開してきました。
では来年はどんなコンセプトの新IPAシリーズが始まるのか。
2025年は、いくつかの単一ホップにスポットライトを当てることにしました。これだけ聞くと、少し平凡で単純な試みのように思えるかもしれません。「シングルホップシリーズ？他のクラフトビールの醸造所の半分はすでにやっていることなんじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、私たちがこれをテーマに選んだ理由は複数あります。
まず第一に、私たちの変化のひとつである新しい設備の能力を披露したいという思いがあります。今年は遠心分離機を導入し、さらにビール内の溶存酸素（DO）レベルを世界水準まで低下させるための設備も加わり、多くの投資、改良を行いました。溶存酸素はビールの劣化の主な原因であり、繊細なホップにとっては敵とも言える存在です。これらの設備により、これまで以上に美味しいIPAを作ることができると確信しています。
ふたつめの理由に、新しいヘッドブルワー、ジェームズの加入があります。彼は、ホップを多用する先駆的なアメリカのブルワリーでの経験が豊富なことから、最先端のホッピーなビールを日夜情熱をもって探究しています。そんな彼が京都醸造に入ってから、IPAに対する私たちのアプローチは大きく変わりました。単純にホップの使用量を大幅に増やしただけでなく、最高のキャラクターを引き出すために、取り扱い方に調整や工夫を加えています。さらにもうひとつ、「ホップニック」と呼ばれるホップ投入のための強力な設備も手に入れました。これがホップの個性をさらに向上させる大きな助けとなっています。
最後に挙げられる理由は、これまでも何度かお伝えしてきたように今年からホップの調達方法が大きく変わったこと。今年の春、ポールがニュージーランドに足を運び、多くの優れたホップの中から、特に素晴らしいと思ったものを直接買い付けました。その後も、アメリカ最大のホップ生産地の一つであるヤキマにも足を運び、同じようにホップの選定、買い付けを行うなど、積極的に高品質なホップの獲得に乗り出しています。
これまで日本国内向けのサプライヤーからでは購入できなかったロットや、新しいホップ種、そして過去に使用した品種についても、比べ物にならないほど新鮮で厳選されたものを手に入れることができるようになりました。この取り組みは、間違いなく私たちのビールの品質をさらに高めるための重要なもののひとつで、その効果が顕著に現れるスタイルがIPAと言えるでしょう。
2025年のシングルホップシリーズでは、例えば、シングルオリジンのコーヒーの産地や品種特有の風味を味わうように、このシリーズでは素晴らしいホップの魅力を最大限に引き出し、その特性をしっかりと感じてもらえるようにしたいと考えました。
このシリーズでは、主役のホップにスポットライトを当て、その魅力を存分に発揮してもらいたい。そして、そのパフォーマンスにふさわしい喝采を浴びてもらいたい。そのようなイメージから、このシリーズに「ホップ・アイドル」という名前を付けることにしました。
そして、シリーズのトップバッターとして舞台に上がる才能あふれるアイドルは、、、
コヒア・ネルソンです！
では、コヒア・ネルソンとは一体何なのでしょうか？初めてこの名前を耳にした方がほとんどだと思います。このシリーズで登場するホップは純粋な単一品種なのですが、唯一このコヒア・ネルソンだけはブレンドホップです。その名前が示すように、ネルソン・ソーヴィンを主体にし、2023年に発売されたブレンドには、もうひとつのNZホップ、Rakauやパッションフルーツも含まれています。
果物であるパッションフルーツは乾燥させた後に種を取り除き、粉砕し、ホップと混ぜてペレット化されます。このユニークな商品を生み出したニュージーランドにあるFreestyle社のウェブサイトでは、「パッションフルーツ、オレンジ、グアバ、ピンクグレープフルーツに近い素晴らしい柑橘系の複雑さ」と表現されており、その香りは甘さを感じさせつつ華やかでありながらも、本質的には非常にドライでクリスプな味わいを生みます。
この新シリーズでは、新たに私たちのパートナーとなったデザイン事務所「Stout Collective」による、明るくポップなデザインのラベルが採用されています。魅力あふれるアーティストがステージに上がり、私たちを盛り上げてくれるというコンセプトをそのままに、その見た目からも楽しさが伝わります。
ぜひこれから次々に登場するホップ達をみて、誰が真のホップアイドルになるかを投票す決めるというのも楽しいかもしれませんね。
「Hop Idol コヒアネルソン」は、新しい年が始まって間もなくの1月4日発売、7日から発送開始です。コヒアの最高のパフォーマンスで封切りするHop Idol、1年間よろしく！
さて、次回は2025年に始まる別の新シリーズについてお知らせしていく予定ですので、乞うご期待ください。