創造性を再び手にして - 2024年の振り返り
ちょうど1年前、共同創業者のベンが2023年を振り返る記事を書きました。その後、年が変わってすぐに私、ポールが、今年1年に向けた心構えや展望について書きました。
早いもので、この一年も放たれた矢のようにすごいスピードで過ぎ去り、そしてまた新たな年を迎えようとしています。特に京都醸造にとっては、これまで以上に内容の濃い一年でした。今年は私が、京都醸造のこの1年を振り返り、それに続く形で、ベンから2025年の抱負や計画についての記事が年明けに投稿される予定です。
さて、まず今年を象徴するイメージをひとつ挙げるとすれば、、、
「Burning the candle at both ends」(ロウソクを両端から燃やす)は英語ではよく使われる慣用句で、どういう意味かというと、「仕事を集中してしすぎたり、多くの責任を抱え込みすぎたりすることで、睡眠不足や不健康な生活を招く」ということです。このような状態を、ロウソクの両端に火を灯すようなことだと比喩し、「激しく働きすぎて早々に燃え尽きる」ことを表しています。
しかし、こうした場合でも、過酷な努力が報われて、目に見える成果につながることd、次第に短くなるロウソクを逆に少しずつ少しずつ延ばせるような気持ちになるものです。すこし変に聞こえるかもしれませんが、このように両端から燃えるロウソクのように動きまわることが、この一年の私自身にとって、そして京都醸造にとっても、エネルギーを昇華するような貴重な経験であったと感じています。
創造性への追求
思い起こせば創業当初、定番ビールを仕込む以外は、「明日タンクが空くけど、何を仕込もうか?」と部屋に集まって話し合うところから始まりました。(実は人気シリーズの「気まぐれ」もこうして誕生しました)
このようなラフな計画スタイルの欠点は、何を造るかは手元にある材料に左右されることです。しかし、その一方で、限られた材料を活用して何かを作り出す創造性を発揮できるという利点もありました。いかにもスタートアップらしい、勢いを味方につけた方法です。 その後、年月を重ねるにつれて、明日のことをその時の感覚に任せて行うのではなく少し先の計画を立てることが理にかなうようになりました。明日は来週に、来週は来月に、そしていつしか1年先までのスケジュールを計画するようになりました。
計画的であるということは、それはそれで以前にはなかった夢のようなものでした。すべてが綿密に計画され、何がいつ販売されるかをあらかじめお客様にお伝えすることができました(取引の規模が大きくなるにつれて、一部のお客様からは3か月先の生産予定を知りたいという要望もありましたが、対応できるようになった)。また、資材業者との調達の計画も立てやすくなり、事前に必要な量を購入することで、まとめ買いによるコスト削減も叶えることができました。
しかし、そういった計画性は多くの良い点をもたらすにもかかわらず、その時は気づいていなかったことがあります。それは、創造性の観点から見ると、計画にがんじがらめになり、自由さや柔軟性を損ない、いつしか息苦しさを感じる部分があったということです。
2024年の春、新しいヘッドブルワーであるジェームズが日本に来る前に、ベンと私はビールプログラムについて、今後どのように変えていきたいかを話し合いました。私は、これまでの運営方法についての自分の意見を主張しました。それに対してベンは、ある程度の自由を与えてくれたので、ジェームズが到着すると同時に、私たちは思い切った決断をしたのでした。それはどんな決断かというと、その年に計画されていたビールリリースの半分を一気に変更したのです。<ドーン!>
この大胆な変更が即座にもたらしたのは、新たに何かを始めるチャンスでした。私たちは、夢のような広大な「プレイグラウンド」を手に入れ、そこで何して遊ぼうかとワクワクする子供のように自由にビール造りができるようになったのです。しかし、そこに飛び込む前に、混沌の中にも一定の方向性を持たせるために、いくつかの「決まり=ガードレール」が必要であると考えました。
- コンフォートゾーンを避ける
- この何年もの間、私たちはさまざまな国に由来する幅広いスタイルのビールを造ってきました。それにもかかわらず、「京都醸造はベルギースタイルやベルギーとのハイブリッドのビールを造る醸造所」とだけ認識されているところがあります。
- そこで、新しいKBC2.0の取り組みでは、ベルギースタイルのビールを意識的に避けることにしました。伝統的なものからモダンなもの、軽いものからしっかりした味わいのものまで幅広いスタイルに挑戦し、楽しみながら進んでいくという意思の表れです。ただし、これまでも今でもすでに十分に造っているという理由からベルギービールは極力避けることにしました。
- 広げるだけでなく、深める
- ビールには多種多様なスタイルとそれぞれに無数のフレーバーやアロマが存在し、日進月歩であるモルトやホップの新製品の登場によって、これまで以上に味わいの表現の幅が広がります。例えば、その時の気分や時間帯、置かれた環境によって、聴きたい音楽が変わるように、集中したいときには柔らかなローファイ、気分を解放して激しいハードロックを聴きたいときもあるでしょう。
- このような考えを基に、私たちはビールにおいても、多様なフレーバーやアロマを提供し続けるだけでなく、それにまつわるストーリーやコンセプトを提案し続けることが重要だと感じました。実際、私たちのビールを進んで買い求めるお客様の多くは、大手のラガービールよりも高い値段を払ってでも特別な体験を求めています。その期待に応えるべく、より深く、より豊かな味わい、充足感を伴うストーリーを提供したいと考えています。
- ホップを前面に押し出すようなスタイルにおいては繊細な手法を用い、それ以外のスタイルでは大胆さを意識するのに重点をおくこと。
- 特定のホップを取り上げたミニシリーズをリリースした後は、まったく方向性を変えたビアスタイルを提案する。そういったバランスを意識して、ビールの多様性を楽しんでもらえる提案を行うこと。
(どんなビールを造るかの企画会議のホワイトボード)
これまでの7か月間、ほぼ毎週2種類の新しいビールをリリースしてきました。これまで京都醸造の新作ビールをチェックして楽しんできてくれた方には、少々目まぐるしい展開になったかもしれません。(来年の1月以降はもう少しゆっくりの平常運転に戻りますので、ご安心を!)しかし、KBC2.0のビールを試してもらうことによって、幅と深さを感じさせる京都醸造の新たな一面とこれまで以上にビールの面白さや素晴らしさを知ってもらうことができたと思います。
その中では、本当に誇らしく思うようにうまくいったビールもいくつかある一方で、もう少しうまくできると次への課題を残したビールも正直ありました。こうしたビール造りを通じて、私たちの醸造チームがこれまでの「既定路線(コンフォートゾーン)」を抜け出し、多くの新しい挑戦を受け入れる姿を見ることができたのはとてもいい経験でした。そして、私たちは「学んだことをさらに前進するためにつなげる」ことを教訓に、このプレイグランドでの学びを明日の醸造につなげる、そうした積み重ねを強みとして京都醸造の味に反映させていきたいと思っています。
もうひとつ、とても興味深いと感じたのは、私が「うーん、もっとうまく出来た」と感じたビールが、実際に飲んだ方から「気に入った!」と高評価を得たり、逆に自分では「これは良い出来だ」と思ったビールが、あまり売れず、評価も泣かず飛ばずだったりすることです。
こうした経験はすべてが貴重な経験で、人々の音楽の好みがそれぞれ異なるように、ビールに対する好みもまた個々で非常にユニークであることを改めて教えてくれました。そして、私たちが今リリースしているビールの多くが、人々の意見を二分し、結果として会話を生み出しているのです。特に、これまでの京都醸造のビールと並んで新しいKBC2.0のビールがリリースされることで、飲み比べて、新旧のコントラストも試してもらいやすかったと思います。(これも来年1月まで。詳しくはまた改めてお知らせします。)
創造的な自由を取り戻すという元々の目標は、部分的に達成されたと感じています。特に、数々の斬新なコラボレーションを行った点でもわかってもらえるかと思います(過去記事「Crazy on Collabs」 を参照)。そうした自由で創造的な醸造表現を支える新鮮で新しい原材料(ホップなど)は、今後も最高のものを調達していくつもりです。現にこうしている今でも太平洋を渡ってこちらに向かっているところです。待ち遠しいですね!
そして、京都醸造の設立10周年を迎える2025年の5月には、こうした節目に相応しいような、ワクワクするビールを皆さんにお届けできると確信しています。
(コラボレーションで訪れた奈良にて)
締めくくりとして、今年は大きな変革の一年となり、確かに多くの課題に直面しました。が、そんな中でも率先して手を貸してくれた社内のスタッフ達には本当に感謝しています。また、今年コラボレーションさせていただいた方々や様々なプロジェクトでお世話になった企業、そして愛想をつかさず、ひきつづき私たちを応援し続けてくれるファンの皆さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。
心からの感謝を込めて。
ポール