KBC2.0におけるビール造りのフィロソフィー

これまでの数ヶ月の間に、いくつかのビールのラベルの裏に「KBC2.0」の表記とキツネのシンボルを付けてリリースしました。この印は、これまでのシリーズ(気まぐれや毬一族など)とは異なる、KBC2.0という新しい取り組みを象徴するビールだけについています。

【9月までのKBC2.0関連商品】
  • あらためまして
  • ドンブラコ シリーズ2種(Peacharineホップのショーケース (7月)
  • いろとりどりシ リーズ3種(Motuekaホップのショーケース (8月/9月)
  • 洒落(Sharaku) シリーズ2種(イングリッシュスタイルのショーケース (近日発売予定)

このシンボルのついたビールでは、これまでとは一線を画したスタイルや工夫を凝らしたビールが続々と登場し、京都醸造のビジョンがこれからのどのようにシフトしようとしているのか感じてもらえる仕様になっています。これらの缶に施されているラベルのアートディレクションにも変化があるのを気付いた方もおられると思います(これについてはあとの記事で詳しく取り上げます)。味わいだけでなく、ビジュアルなどに至るまで、KBC2.0という京都醸造の新たな一面を随所に散りばめたビール群に共通した印をつけているのです。

では、KBC2.0というのは具体的にどういうものなのか、過去のブログ記事で、すこし言及してきましたが、これからの4回に渡って、そのディテールと背景について、そして具体的な新しい動きなどについて説明していきたいと思います。

ー ”まるでビッグバン!” ビールのリリースについて ー


ビールづくりに必要な材料のほとんどは、世界中のさまざまな地域から輸入されてくるため、醸造計画はかなり前から慎重に立てる必要があります。なので、元々2024年のビール製造計画はその前の年、2023年に進めていました。しかし、その時私たちは、並行して新しい醸造責任者を探している最中でしたので、2024年の前半に現ヘッドブルワーのジェームズが京都醸造に加入してきた時に、前年に決めていた醸造スケジュールの半分近くを変更する決断を下しました。

その理由は2つ。
  • 1つは、これまでの数年間、コロナの影響への対処やクリスの退任に伴う移行という喫緊の課題が続いていたことから、長らく停止していた他ブルワリーとのコラボレーションをジェームズが合流した今、再開するのにこれ以上ないタイミングだということ。
  • もうひとつは、京都醸造がジェームズとともに向かうべく新しい方向性を見極め、それを反映したビールを積極的に発表していくためです。

コラボレーションは、国内外問わず、他の醸造所の仲間たちとの交流の機会で、その中で新しいことを試したり、お互いに学んだりする最高の手段です。それに、新ヘッドブルワー、ジェームズが京都醸造に加ったこのタイミングで彼をクラフトビールシーンにいる古くからの友人や最近知り合った方たちに紹介することをひとつの目標に、コラボレーションを再開し、今年はこれまで以上のペースで行っていくことにしました。


【2024年のコラボレーション】
  • West Coast Brewery -「黄金比」2種
  • Godspeed Brewery & Kobo Brewing -「黙々人
  • Y.Market -「自我事変
  • 雑穀工房 - 「正統派」・「異端派」 (9月第2週発売予定)
  • 二兎醸造 - 「未定」(10月下旬発売予定)
  • (他に年内あと6つのコラボを予定)

コラボではない京都醸造のビールにおいては、ジェームズによる既存のビールのレシピの調整・見直しをおこなったりする半面、いつかのようにこれまでの流れや考えにとらわれず、より自由にビール造りをするためのシンプルな方法を模索し始めました。それがこのKBC2.0へとつながっていきます。

では、創業から9年を経て、ジェームズを迎え入れた京都醸造は、次なる焦点をどこに当てるのか。

  • 「原料の選定と調達方法に重点を置く」
  • 「ホップやその他の味わいの個性を伸ばし、ビールをより印象的に」
  • 「大胆なリスクを取ってでも、失敗し学び、前進する」

これら3つの考えの下、京都醸造はKBC2.0を推し進めていきます。

ー 原材料をリセットして再構築する ー


国内のビール製造において、原材料の調達は最初に立ちはだかる大きなハードルです。ジェームズの醸造のキャリアは、国内国外問わず多種多様な材料が豊富にそろう米国で始まりました。一方で、日本においては、国内で手に入る材料はきわめて限られていて、海外産のものを手に入れる必要があります。その場合、長い距離を経て輸送する必要があるため、到着するころには材料の品質が大きく変わってしまっていることもあります。

そこで、ビールの味を決める肝である麦芽(モルト)の状態に厳しい目をもって、再選定することにしました。まず、私たちは国内の麦芽を輸入している商社すべてに連絡を取り、サンプルを送ってもらい、それを数時間かけて、醸造チームとともにひとつひとつテイスティングしました。そして、その結果に基づいて、私たちが造りたいビールに合ういくつかのスペシャルティモルトを選定しました。モルトの輸入プロセスの仕組みを考えると、すぐに全てを切り替えるのは難しいですが、可能な限りスピーディーに変更を進め、2025年には完全な切り替えが叶う予定です。

ー 現地に出向き、直接取引で調達する ー


私たちは、複数の商社を頼って、原材料の調達を行っています。麦芽だけでなくホップもそうです。全国で醸造所の件数が増える中、少数の商社が供給対応している現状があります。そんな商社が目標としているのは、多くの醸造所にホップの提供を可能にするために、そのホップの”平均的”な香りや味が保てている状態をOKとし、供給することです。もしくは、ホップをたくさん購入する少数の大口顧客に限定しての供給とするところもあります。そうなると、ホップのようなデリケートで品質が変わりやすいものの場合、なかなかこちらが期待している状態で到着することも難しくなってきています。

その傾向は人気ホップになると顕著です。たとえば、モザイクホップは、ブルーベリー、メロン、トロピカル、ダンク(湿った草のような香り)なフレーバーの特長があり、非常に人気があります。ブルワーによっては、ブルーベリーの特徴を強調したい場合もあれば、トロピカルなニュアンスを求める場合もあり、非常に汎用性が高いのも人気の理由のひとつです。しかし、購入量やどこ経由で購入するかによって、ホップのチョイスが限定的であったり、時には全く選択肢がない場合もあります。

そうしたことから、私たちはホップのどこの誰から調達するかを多様化すべく、実際にホップが生産されている現地に足を運び、自分たちがビールに使いたい理想的なホップを獲得することにしました。もちろん、一部のホップは、引き続き商社の協力の下、調達を続けますが、その他のホップについては、私たち自身で直接買い付けを行うことにしました。

すでにいくつかのビールで、これらのホップを使用し始めていますが、ニュージーランド産に続き、来年春頃からはアメリカで自己調達したホップを使ったビールも登場し始めます。海を越え探し求めた末に獲得し、持ち帰ったフレッシュなホップを使ったビールは格別です。ぜひ期待していてください!

とりあえず、ここで

今回はここまで。次回は、アートディレクションの変更についてお話する予定です。その後は、私たちのビールプログラムがどのように進化していくかについてさらに深く触れていきます。