「あらためまして」-新ヘッドブルワーの紹介と次章の始まり
私たちのヘッドブルワー(醸造責任者)について、以前このブログで触れてからしばらく経ちました。その後どうなったのか、気にしてくださっている方も中にはいらっしゃると思います。今日は、そんな皆さんに新しい報告があり、文を書きました。(いつものことながら)少々長いですが、お付き合いください。
ご存知の通り、私たちのヘッドブルワーであり共同創設者でもあったクリス・ヘインジは、昨年2023年12月に京都醸造を卒業していきました。(それについての過去の投稿)。
昨年の5月に投稿したブログを通じて、クリスが年内で退職することを発表して以来、多くの方々からこれからの京都醸造について質問を受けました。その多くは、「京都醸造は大丈夫か?」という意味を含んだもので、そして当然、クリスのようなヘッドブルワーの代わりをどうやって見つけてくるのか?という声が多かったように思います。
その後、そんな人々の不安が的中するというシンプルなことではなく、私たちがこの事態に直面し、頭をフル回転し、行動を起こし、結果にたどりつくまでには想像する以上に長い時間を要することになりました。そして、それには真っ当な理由があります。
京都醸造を創業から9年間引っ張ってきたクリスは、国内屈指のブルワーの一人です。安定性、バランス、そして多種多様なスタイルを高い水準で継続して産み出し続ける能力において、彼に勝る者はいないと私たちは信じています。会社の経営者としても、強い責任感を持ち、安定した精神と慎重なマインド、時には勇敢な姿勢まで見せてくれました。海外から来日した外国人で彼ほど日本語を流暢に操れるようになる人はほとんどおらず、取材や公に話すシチュエーションにおいても、もしかすると日本人よりも明瞭に受け答えしていたように感じました。それに加えて、彼が私たちと一緒に会社を創設し、会社とコンセプトを誰よりも深く理解していたという事実を考えれば、彼はまごうことなく京都醸造を体現するような存在で、私たちにとって非常に重要な人物だったことは言うまでもありません。
では、彼がいなくなった後、私たちはどうやって彼のようなブルワーを見つけるか?
その問いに対しての私たちの答えは、見つけられない、です。
少なくとも、日本国内で有力なブルワーを探すことは試みませんでした。もし万に一、クリスと同じような能力を持つ人がいたとしても、その人が私たちの誘いにタイミングよく応えてくれる可能性は極めて低いと思いました。そこで、私たちは一歩引いて、京都醸造は今どこにいるのか、そして将来どこに行きたいのかを再びじっくり見つめ直し、未来に何を必要としているかを探しに出かけることにしました。
端的に言えば、私たちの目標が「これまで造ってきたビールを造り続けること」であったなら、今いる醸造担当チームにその機会を与えることでことが済んだかもしれません。クリスはリードブルワーの歩と他のメンバーに高品質なKBCスタイルのビールを造り続けるために必要な多くのことを丁寧に引き継ぎしたし、そのチーム内には、創造性とビールへの愛が十分にあります。
しかし、これまでにやってきたことを続けることの意味について考えました。それは、どれだけ優れていても最高のレプリカ、つまり模倣に過ぎず、私たちが最も避けたいと考えたのは自分たちのレプリカを造る醸造所になってしまうことです。
では、私たちが目指しているものは何か、KBC2.0で目指すべきことは何か?
私たちはこれからの1年間で達成したい2つの大きな目標を掲げました。
「一貫性と品質の向上」
最初の目標は、ビールを可能な限り一貫性を持たせ、信頼性が高く、ほぼ完璧といえるものにすることです。それを達成するためには、最高品質の製品を作るための妥協を許さないことです。
以前にも触れましたが、一部の製品でベルギーの伝統的な製造技法である容器内(缶、樽、ボトル)で二次発酵させる方法を取り入れ、これによってビールの保存期間を延ばすだけでなく、時間の経過と共に味わいを発展させることができます。この取り組みも一貫して安全に、そして最良の結果を得るために、検査ラボ設備を導入し、二次発酵のためのインフラを整えました。
また、私たちは多くのビール、特にホップをたくさん使ったビールがその特長を可能な限り長く保持させることに注力する決断をし、これには国内のほとんどの醸造場が未だ持っていない特殊な設備に多額の投資を行いました。
これが重要である理由はいくつかあります。一つは、私たちのビールが消費者の手に届いたときに新鮮な味が保たれていることが重要だからです。ビールが完成した後1週間以内には手元に届いて、すぐ楽しんでもらえたら、それは容易に叶うのですが、実際にはそうならないでしょう。だからこそ、ビールが製造から3か月経っても、まだフレッシュな味を保ち、6か月後でもまだまだ美味しいと思ってもらえる味を保つことを目指しています。これは多くの醸造所においてもホッピーなビールではまだ達成できていないことです。
もう一つの理由は、私たちのビールだけでなくクラフトビール全般がより広い客層に届くようにするためには品質と一貫性が重要であるからです。クラフトビールは高価です。けっして安い飲み物ではありません。今もそうであり、将来もきっと変わらずそうでしょう。質の低い原料で高品質な製品を作ることはできません。質の高い原料を使おうとすると、より多くのコストがかかります。それは至極シンプルなことです。
クラフトビールそのものの評価を下げるのは、クラフトビールを初めて手にする人が高いお金を払って、期待外れのビールを手にしたときです。多くの人は時には90点だが30点の時もあるようなビールに高いお金を払うよりも、ほどほどの価格で60点くらいのビールを毎回得る方が良いと思っています。そこで私たちは、ビール愛好家が最大限の信頼をもって京都醸造のビールを注文できるようにし、そして初めてクラフトビールを飲む人が京都醸造のビールをきっかけにその魅力に引き込まれるように、ビールを最高の状態で提供することを目指しています。
「国内の業界最前線に立つ」
私たちがこの会社を始めたとき、一番最初に紙に書き出した基本的価値観(コアバリュー)は「探求 - Exploration」でした。これは新しいアイデアや経験を絶えず探求して、成長し続けることを意味していました。私たちは常に学びに対してオープンであり、そのこともあってか試行錯誤の末に高水準のビールを作るための能力が年々向上するというような手応えを感じてきました。
これまで手であり頭でもあったヘッドブルワーが会社を去るという、外から見ても困難な状況に直面することは、あらためて私たち自身、内部を見つめ直す機会をもたらしました。
そのなかで、私たちが達成したこと、そしていくつかの点において先駆者であったことを再認識し、同時に業界が日々前進している中で私たちはいつの間にか、その最前線に立てていないことを悟りました。率直に言えば、時間が経つにつれて、より保守的になってしまったということです。先述のとおり、造るビールにおいてバランスと一貫性は非常に重要ですが、それだけが持ち味の醸造所とは言われたくありません。結局のところ、時代に敏感で美味しいクラフトビールを日々探究しているクラフトビールファンが、私たちに大きな気づきとスタートを与えてくれたのです。私たちはこの機会を最大限に活かし、いつしか置き忘れてしまったものを取り戻したいと思っています。
さらに具体的に言うと、
私たちが本当に成長するためには、日本国内に存在しない、もしくは非常に限られている深い知識や経験を持つ誰かをこの広い世界から探し出す必要があると判断しました。
私たちはグローバルに醸造知識をもつ人物を探し始めると、予想以上に多くの反応があり、時間をかけて応募者ひとりひとりとのインタビューを続けました。その結果、私たちの高い期待をさらに上回る能力をもったひとりの人物が現れました。重要な点は、その人物が、技術能力はもとより、私たちが京都醸造の次のステップとして掲げる挑戦に対して熱い情熱を持ってくれていると感じたことです。
では、京都醸造の次章へ一緒に突き進んでいく熱きヘッドブルワーを紹介します。
京都醸造の新醸造責任者に就任したジェームズ・フォックスです。
元々、エンジニアとしての肩書きを持つジェームズは、アメリカでクラフトビールが最も急成長していた時期にクラフトビールシーンに惹き込まれ、12年前にストーンブルーイングで自身のキャリアをスタートさせました。その後、急成長し最盛期にあったバラストポイントで醸造家として約4年間を過ごし、東海岸に設立された第二醸造所立ち上げの中心的な役割を果たした後、醸造オペレーションのディレクターになりました。直近では、ニュージャージー州のケープメイという醸造所にて醸造ディレクターとして携わり、製造量を年間3.6百万リットルから8.7百万リットルに急成長させる立役者となりました。
ストーンやバラストポイントといったクラフトビール界大手の名前はさておき、ジェームズが私たちを本当に感心させたのは、彼が持つビールへの熱意からくる知識の豊富さ。クラシックなものから現代的なクラフトビールまで醸造に関するありとあらゆる知識をもち、さらに現在のビール業界で起こっていること、日々生み出される新技術や醸造手法、そして最新のホップや酵母に関することまで、ビールへの強い愛を持つが故に蓄積された彼の見識の広さに驚かされました。
では次は何が?
まず、ジェームズをようやく皆さんに紹介できるようになり、とても嬉しく思います。そして、私たちが彼と歩む「KBC 2.0」と呼んでいる次のステップがどういうものなのかについて、お伝えしていきたいと思っています。もちろんすでに最近のいくつかのリリース、例えば樽限定で発売した「あらためまして ダブルIPA」や最近のコラボレーションの方向性に変化の兆しを感じ取っている人もいるかもしれません。今後の私たちのプランについての詳細は、ひきつづきブログやSNSを通じて、またはイベント参加の際に、お知らせします。
そして、ジェームズ加入を象徴するビールとして、もうひとつの「あらためまして」、缶限定のヘイジーペールエールを発売します。私たちが2015年に初めて発売した自己紹介ビール「はじめまして」も、偶然にもペールエールでした。ジェームズのビザ取得が想定以上に長期化したことにより、いろいろと発表が遅れてしまいましたが、ようやく「あらためまして(ヘイジーペールエール)」をジェームズとKBC 2.0の紹介としてリリースできることを嬉しく思います。ジェームズを迎え入れられて喜んでいる私たちと同じくらい、このビールを手にした皆さんがその出来に満足していただけることを願っています!
では、あらためまして、京都醸造をよろしくお願いします。