内面の変化を映すあらたな装い
KBCの新しい姿
先日は、新しいヘッドブルワーのジェームズ・フォックスの着任に伴い、京都醸造の次なるステップと進化についてお話ししました(KBC2.0におけるビール造りのフィロソフィー)。この一連の決断と行動は、私たちにとっては、大きな一歩といえるでしょう。
私たちはすでに変わり、そして変わり続ける
そして、これまで何度か繰り返しお伝えしているように、私たち京都醸造は大きな変化を前向きにとらえ、前進することを決心し、会社自体を新しい方向に進めているところです。これはもちろん、個人レベルでも容易なことではなく、会社規模になると尚更です。それは、単にいくつかのビールの新しいレシピを書くというだけの話ではありません。会社のあらゆる側面に渡る、根本的な変革と言えます。なぜ私たちが大きな変革を進めているのか、今日はこれについて少しお話しします。
結局のところ、変化にはリスクが付き物で難しいものです。想定以上に時間がかかり、混乱が伴うこともあります。しかし、それでも変化は必要だと考えます。
新しいヘッドブルワーに「これまで私たちがやってきたことをそのまま続けて欲しい」と言うこともできるでしょうが、果たしてそうする意味はあるのでしょうか?企業は、自らに挑戦を課しているときにこそ、最高の仕事をすることができ、それもただ同じことを繰り返すだけでは成し遂げられません。
私たちは、変化はチャンスであると強く信じています。前ヘッドブルワーであるクリスが京都醸造を去る前から、私たちはこのチャンスを受け入れることを心に決めていました(過去の投稿「あらためまして」新ヘッドブルワーの紹介と次章の始まり)。それは、優れた醸造チームのパフォーマンスをさらに向上させるためであり、新しく加入するヘッドブルワーが持つ知識やアイデアを旺盛に取り入れるためです。これまでの京都醸造のアイデンティティの良い部分をうまく保ちながら、新しい知識やアイデアを取り入れることで、私たちはどこまでも進むことができるような躍進力を手にすることができるのではないかと考えています。
変化は、時にすべてを包み込むものです。今回の変化や進化と聞くとビールにのみ注意を向けがちですが(私たちはビールを造る醸造所なので、それは至極当然のこと)、実際には、会社全体がその変化を感じており、会社の考え方(哲学、フィロソフィー)にもその影響をみられます。過去を反芻し、強みをさらに活かし、新しいことに挑戦し飛躍を、という進取の気風が舞い込んで、変わることを恐れないムードを醸成しています。そうした、メンバーひとりひとりによって形成されるダイナミクスがこれからの京都醸造を切り開くと考えています。もちろん、これまでの京都醸造を造ったメンバーに最大のリスペクトを抱きながら。
京都醸造、装いも新たに
私たちがこの一連の流れの中で最もハッとしたことの一つは、ブランドにも変化が必要であるということに気づいた時でした。人の内面に変化が生じれば、服装などの外面にも現れると聞くと理解しやすいかもいれませんが、もし京都醸造のビールプログラムとその根本を成す企業文化にも変化が起きているなら、それを反映するようにヴィジュアルの変化が必要と考えるのが自然です。
多くの方が、最近の「KBC 2.0」と呼ばれる限定リリースのビジュアルスタイルが、これまでとは方向性が異なる、よりモダンでインパクトフルなものであることに気づいているでしょう。
今年の初めまで、毬一族シリーズを除くすべての商品のデザインは、京都在住の才能あるデザイナーによって行われてきました。私たちはこれまで、京都醸造のブランドを築いた彼の秀逸なデザインとともに歩んできましたが、現在の私たちと今後の進むべき方向性に基づいて、会社のアイデンティティを大きく見直した今こそ、苦渋の決断ではあるが、ブランドをアップデートする時期だと考えました。
そこで、Other HalfやAllagashなどの醸造所のデザインで知られ定評のある、クラフトビールを専門とするアメリカのデザインエージェンシー、Stout Collectiveの力を借りて、京都醸造のリブランディングプロジェクトを進めていくことになりました。私たちの拠点はあくまでも日本ですが、すでにグローバルなクラフトビールシーンの一部であるという見方もできるわけで、世界規模のこの業界に精通した会社といっしょにプロジェクトを行うチャンスは、国内のブルワリーにとってもなかなか稀有なことでしょう。また、Stout Collectiveはデザインに関しての専門知識を豊富に持ち合わせており、京都醸造のDNAに基づいて、ブランド全体を構築し直す能力を持っていると判断したのが、彼らを選定した理由の大きな部部です。
私たちは、「あらためまして」や「ドンブラコ」、そして最近の「いろとりどり」などの新しい単発リリースのラベルデザインを彼らに依頼しましたが、これは一種のプレビューとも言えるでしょう。ブランドを本格的に見直すためには、単に新しいイラストや色を製品に貼り付けるだけではなく、京都醸造が2024年現在にどのような存在で、今後どうなっていくべきかを深く掘り下げ、そうした長期的な視点をもってヴィジュアルを考える必要がありました。
このプロセスは、非常に集中力と根気を要するもので、多くのエネルギーと時間を注ぎ込んでいます。そして、最後にこれに似たことを行ったのは10年前、醸造所立ち上げを計画していた時でした。驚くことではありませんが、以前と今回の間には多くの違いがあります。しかし、これらの違いについては、今は詳しくお話ししないでおきます。
現在のKBC2.0のビールは、聞こえは悪いかもしれませんが、実験室のようなもので、新しいデザインのアイデアを試行錯誤しながら、実験的なビールを作るための場として意図的に使用されています。私たちはこれまでの自社ブランドから完全に移行しておらず、フォントやテンプレートの要素など、いくつかのデザインの要素は維持しながら、プロジェクトを進めています。
大規模なアップデート前夜
いくつかの変更はすでに行いましたが、より大きな変革はまさにこれからです。ビール造りのプログラムに関して言えば、まだ新しい設備に慣れている最中であり、ジェームズも日々、設備の微調整を続けています。私たちはまだ過渡期にあるといえるでしょう。
もちろん、そうした変化は、単にいくつかの「2.0」ビールを既存のシリーズに追加するだけでは終わりません。それは、もっと深いところまで掘り下げなければならないと考えています。そのため、私たちは既存のシリーズの見直しにも着手しました。それは、どのシリーズを残し、どのシリーズを手放すべきかという話です。残して継続すると判断したシリーズに関しては、「もし最初からやり直すとしたら、このビールを作るだろうか?それともアップデートが必要か?」と自問しながら進めています。それは、先述した、会社のビジュアル要素にも行っているように。
ひとつ断っておきたいのが、これら一連の取り組みは今までのものを全てを捨て去るという意味ではありません。私たちが愛しているビールの要素ははっきりと把握しており、それを易々と捨て去るような愚かなことをするつもりは毛頭ありません。私たちはハウス酵母(ベルジャン酵母)とそれらが作り出すベルギービールが大好きです。これは、創業以来一貫したもので、変えるつもりは一切ありません。ビジュアルがアップデートされていく中でも、私たちが好きなもの、大切にしたいものといった京都醸造のDNAは自然と残っていくでしょう。
もう一度ここで、はっきりさせておく必要があるのは、私たちはこのリブランディングでKBCの2025年以降の姿を表現したいと考えており、2015年の私たちを表現するものではないということです。それは、定番ビールや初期から続いている老舗シリーズを含めた、全ての製品において、見直しを実施することです。
これには、いくつかの犠牲を払わなければならないでしょう。自分たちが本当に好きだったものを手放すことには少し寂しさを感じます。最近の例では「黒潮の如く」がその一例です。しかし、それは家で身の回りを整理するようなものです。新しいものを迎え入れるには、今あるものに優先順位をつけ、整理をするだけのことですが、時には思い出深いものが不意に飛び出し、感傷に浸り、手放すことを注書させることもあるでしょう。誰しもが一度は経験することです。しかし、過去に執着しすぎて全てを保ってしまうと、新しいものを取り入れ、前進し、今の自分自身に全力を注ぐことができなくなります。「黒潮の如く」をこれ以上造らないと判断したことで、他のより実験的なダークビールや、人々を喜ばせるビールを醸造する機会が生まれます。
変化、それは避けられない、冷酷で恐ろしいものだが、同時に人を興奮させ、前進・成長させるもの
では、次に何を楽しみにしてもらいましょうか?近いうちに、来年のシリーズに関して発表します。そこには、今年のフルーツIPA「六果撰」シリーズに代わるものも含まれます。現在、ブランドの見直しは最終段階にあり、新しいビジュアルアイデンティティの完成も間近です。これを発表できる日を楽しみにしています。
この新しいアイデンティティは、一部のビールだけでなく、幅広いシリーズのデザインに及び、さらにフォントやロゴのアップデートも含まれます。定番ビールのラベルデザイン、気まぐれシリーズ、既存の他のシリーズ、そしてもちろんホップやスタイル、その他にも皆をウキウキさせるようなビールコンセプトの実験醸造も予定されています。
変わることへの少しの不安とノスタルジーを感じながらも、京都醸造の次のステップを近日中に皆様にお届けできることを楽しみにしています。今後の展開にご注目いただき、SNSやブログでの発表をお楽しみに!