KBC2.0におけるビール造りのフィロソフィー - 第2部 「南へ」

KBC2.0についてとりあげた第1部では、私たちがどのようにして醸造プログラムの半分を事実上取りやめるという決断に至った、その背後にある理由についてお伝えしました。その中で、KBC2.0の名の下にリリースされたビールが、今の、そしてこれからの京都醸造で起こる多くの変化(小さなものから、大きなものまで)を反映していることを説明しました。そして、最後に、私たちがなぜ、どのようにビール造りに必要なモルトとホップの調達方法を変え始めたかについても、少しだけ取り上げました。

また、その次の記事では、KBC2.0のアートディレクションの変更について説明し、これまでとは異なる新しいデザインチームと一緒にラベルデザインを含む取り組みを始めたことに言及しました。来年2025年に向けて、その方向性の変更は、定番を含むすべての製品に及んでいく予定です。詳細は追ってお知らせします。

さて、この第2部では、KBCで進行中のさらなる変化について、 特に私たちを魅了して止まないニュージーランドホップについてお話します。

ー すべての始まり ー

2023年3月当時、新しく導入を検討していた遠心分離機を持つ国内醸造所との話し合いと調査を行う中で、旅の初めにWest Coast Brewing(以下WCB)を訪れる機会がありました。 WCBのオーナー兼マネージングディレクターのDerrekさんとこれまでビールイベントなどで何度も会って話すことはありましたが、実際に彼らの醸造所を訪れたのはこれが初めてでした。

ブルワリー見学ではよくあるように、普段どんな原材料を使っているのかを見せあう文化があり、それをきっかけに会話が膨らんだりするので、私はこれがとても好きです。WCBを訪れた際、資材用の冷蔵庫の中に入ると、「Freestyle」と書かれた大きな銀色の箱や「NZ hops」というステッカーが貼られた箱があることに気付きました。Derrekさんは私たちがそれらに興味を引かれたことにすぐに気付き、Freestyleのホップの質の高さや、その運営を行っている素晴らしい夫婦についても大いに語ってくれました。

数ヶ月後、私はWCBのDerrekさん、Black Tideの共同創設者でありヘッドブルワーのJamesさん、Sakamichi Brewing の共同創設者でありヘッドブルワーのMattさんと一緒にニュージーランドへ向かう飛行機に乗っていました。

ニュージーランドに向かった目的はというと、いくつかの農場を訪れ、土地を耕す農家さんやホップを加工する現場の作業員さんと話したり、既存のホップを改良し新製品を開発するための研究開発に携わる科学者たちと話すこと、そしてすでに多くのニュージーランドホップを取り入れている情熱的な醸造家たちに会うことでした。

ー 一年中新鮮 ー

これまで、私たちも他の多くの醸造所と同様に、たびたびニュージーランドホップを使用していましたが、それは使用ホップの大部分を占めるアメリカ産の補助的な使用方法にとどまり、ニュージーランドホップにフォーカスしたことはありませんでした。 しかし、南半球からのホップの素晴らしい点は、その収穫時期が北半球とは基本的に反対であるということです。私たちの冬が現地では夏であり、その逆もまた然りです。アメリカでは一般的に9月頃にホップが収穫され、その後コンテナに積み込まれ、日本には2〜3月頃に到着しますが、ニュージーランドでは3月に収穫され、日本には8〜9月に到着します。

さらに、アメリカのホップ栽培地域を見ると、その大部分はワシントン州とアイダホ州の西海岸に集中しており、だいたいはYakima地域の北緯46〜48度の間に位置しています。

一方で、ニュージーランドのホップ農場は、南島の特定の地域に集中しており、北緯42〜45度の間に位置しています。

これは、日本で言えば、札幌から稚内までの緯度に相当します。

今後、多くニュージーランドホップを計画的に取り入れることで、私たちは年に2度、新鮮なホップを受け取ることができるようになります。

独自の風味と香り

ニュージーランドは他国から少し離れた位置にあるため、国内の動植物の数は世界でも有数です。同様に、ニュージーランドで栽培されるホップは非常にユニークな特徴を持っており、そこでしか作れないといっても過言ではありません。 19世紀初頭、ニュージーランドはイギリスとドイツ風のホップを多く生産していましたが、第一次世界大戦によってニュージーランドはヨーロッパの影響下から離れたため、すぐさまアメリカからの品種を輸入しようとしました。しかし、それらのホップは地元特有の病気への耐性がなく、ニュージーランドではアメリカのホップをより丈夫なイギリスの品種と交配させる必要がありました。その結果、ニュージーランドでは20世紀初頭にホップの生産方法を独自に変え始めることになりました。

Motuekaの強いライムの風味、Riwakaのエキゾチックなパッションフルーツの風味、Nelson Sauvinの素晴らしい白ワイン様の風味など、異なるホップ品種の交配と独特の土壌の性質、そして多数あるぶどう畑との距離の近さが組み合わさることで、ニュージーランドのホップとその原産であるイギリス、ドイツ、アメリカのホップとの風味の違いは時間とともにどんどんと広がりました。

私たちのビールにより多様な風味をもたらすために、私たちはニュージーランドホップの使用量を増やすだけでなく、レシピに組み込む品種のバラエティーも大幅に増やすことにしました。

群れから離れて

慣習的に、現地の農家さんはホップの栽培に専念し、その他のマーケティングや販売、顧客との継続的な関係などは彼らが所属する農協や組合に任せていました。農家が農業に集中するという考え方は、原則としては良いことのように聞こえます。特に、彼らが農業に集中できる一方で、組合が全ての農家を支援するために設備に多額の投資をする場合はなおさらです。

しかし、彼らが生産したホップは農協に任せたあとどうなるのでしょうか?

時には、すべての農家が同じ日に収穫した同じ品種のホップ(Motuekaを例に)が一緒に混ぜられることがあります。これにより、手塩にかけて育てた農家さんのホップにはあったかもしれない個性が平均化されてしまいます。これは良くも悪くも均一化された商品を提供するという意味では、良い方法かもしれませんが、両刃の剣とも表現されます。比較的収穫が悪い年であっても、より強力な農場がすべてを平均値まで引き上げてくれることが保証されますが、他方では、本当に一歩上を目指すインセンティブがなくなります。

日本国内の農作物を取り巻く環境でもよく似たことが起きていますが、最近では、ニュージーランドのホップ農家がそのような組合から離れ、消費者、つまり醸造所と直接取引を行うことが一般的になりつつあります。組合を通じて購入する場合、自分が希望する(場所やロットの)ホップを選択するためには、少なくとも2500キロ以上のホップを同時に注文する必要があり、日本の小さな醸造所では、それほどの量を1年で消費することすらできません。ところが、個人農家から購入する場合は、幸いなことに、最低購入量を20キログラムまで引き下げてくれる場合もあります。

今年は、ニュージーランドホップに関して、4つの異なる農場、5つの異なる畑でできたホップの調達を行いました。

これが何を意味するのか?

今後数ヶ月の間に、ニュージーランドホップを使ったビールの数が増えていく予定です。これらのビールをリリースする際に、私たちがなぜそのホップを選び、その農家と協力することに決めたのかについてまで説明していきたいと考えています。 いくつかのエキサイティングなビールが現在計画中で、皆さんにそれをお届けするのが待ちきれません。

では、次回の記事では、「アメリカの農場」に焦点を当てます。実は、数日後に実際にアメリカに向かい、ホップ農場を訪れる予定です。ホップを直接買付することがなぜ大事なのかについてさらに詳しくお話しします。