京都醸造の今を体現する - 定番商品のアップデート
創業して間もない頃から造り続けてきた定番のセゾン「一期一会」をはじめとするベルジャンビールシリーズは、京都醸造を体現するような自己紹介的な存在で親しまれてきました。その定番を今から4年前、缶ビールの発売と同時にラインナップの変更を行いました。3つのビール(一期一会・一意専心・黒潮の如く)はそのままに、それぞれのレシピを、私たちが理想とする味わいにより近づけることを目指し、変更を加えました。それは、創業時よりも知識と経験を積み重ね、より優れたビールを造ることができるようになったという、その時点の出しうる能力をビールに投影し、そして、私たち自身が思い描く「こうあるべき」という理想像を具現化するための変更でした。
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当時、変更に至った背景などをブログ記事(こちら)で共有したのですが、その中で以下のような希望とその理由について書いていました。
- 一期一会はもう少し軽やかにし、ホップよりも酵母感を押し出した味わいにしたい
- 一意専心はよりパンチの効いたビールにしたい
- 黒潮の如くはもっとボディを持たせる必要がある
そうした定番のアップデート、そしてその数年後には週休6日が定番の仲間入りをし、フラッグシップとして京都醸造を引っ張ってきました。それから4年が経った今年、創業以来最大の変革を私たちは迎えています。それは、新しい醸造設備の導入、新しいヘッドブルワーの加入、そして新しいデザインに至るまでの昨年から続く流れを汲み、今年の10周年が近づく中で、もう一度定番ビールを見直し、刷新する時が来たと感じました。
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ひとつ断っておかないといけないのは、私たちの目標は、けっして自分たちのアイデンティティを捨てて別のものに置き換えることではないこと。定番をその時の京都醸造をしっかりと反映した存在にするということを念頭に置き、変更に着手しました。
その中でひとつ難しい決断を下したことがあります。これまで定番ビールのひとつとして造ってきたベルジャンスタウト「黒潮の如く」を止めるということです。この決断は私たちにとって大きな痛みを伴うものでした。なぜなら、まずそのビールが好きだったし、常にスタウトを提供していること自体に自負しているところがあったからです。
しかし現実として、他の定番である「週休6日」や「一期一会」とは異なり、「黒潮の如く」は売上が伸び悩んでいました。また、「黒潮の如く」があるが故に、他の限定スタウトを発表する機会を失っていることも明らかでした。そうした結果を受けて、私たちはこの”お気に入り”を手放し、その空いた枠を活用して、より幅広い限定のダークビールを試作することを決めました。この犠牲によって生まれた自由をないがしろにすることなく、今後登場するさまざまなスタウトなどのダークビールを楽しんでいただけるよう努めていきます。
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一方で、先述のとおり、かつて限定商品だった「週休6日」を定番ビールにすることは非常にシンプルな選択でした。このビールの人気が年々成長し続けていることを見るに多くの方に満足してもらえているということに疑いの余地はありません。一日の終わりに気軽に楽しめる、味わい豊かなビールとして、私たち自身もよく手に取るこの”お気に入り”が、受け入れてもらえて嬉しいです。最近は、京都駅でも販売されていて、新、新幹線で東京に向かうときにもパッとお供させることができるのも気に入ってます。
では、そんないい感じの定番ビールを、なぜこのタイミングで変える必要があるのでしょうか?
それは、私たちがこのビールをさらに良くできると信じているからです!もちろん、この世界にはいつまでも変わらないでほしいビールもあります。例えば、セゾン・デュポン、カンティヨンの素晴らしいグーズ、一部のクラシックなイングリッシュビター、そして最高に美味しいドイツラガーなど。しかし、一般的にモダンなクラフトビールはまだ発展途中にあり、微調整や改良を重ねることで、私たちの定番ビールもさらに進化させる余地がたくさんあると考えています。
昨春に京都醸造にヘッドブルワーでジェームズが加わったことで、私たちはこれまで積み重ねてきた成果に彼のもつ知識や技術を取り入れ、自慢の定番ビールを更なる高みへと引き上げたいと考えました。
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3つの定番ビールそれぞれに異なる調整を加えるのですが、今回の変更内容やその理由、そして変わらず守り続ける部分について少し説明していきたいと思います。
まずは、3つのビール全体に共通する変更点について見ていきましょう。
刷新する際に、すべての定番ビールに加えたいと考えた4つの共通要素があります:
〇ベルギー産のベースモルトを使用
ベルギーのモルトには独特の特徴があり、他の国のモルトではなかなかその表現が難しいと感じました。そのため、全ての定番ビールのベースモルトとして採用することにしました。
〇アメリカ産だけでなくニュージーランド産のホップを採用
これまでのアメリカのホップに加え、最近新たにその素晴らしさに気づいたニュージーランド産のホップも使用し、多彩な風味を追求しています。
〇伝統的な苦味ホップを、モダンなホップ製品に変更
雑味の少ないクリーンな苦味を得るために、従来のホップに代わり現代的なホップ製品を使用。
〇特殊な設備を使用
従来の方法よりもホップの味わいや香りを向上させる設備の導入により、ホップの魅力を余すことなく効果的にビールに与えることができるようになります。
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一期一会
私たちの最初の定番ビールであり、多くの人にとってそのラベルを見るだけで京都醸造と気づいてもらえるような「看板商品」と言える存在です。
一期一会の魅力は、その「バランスの良さ」と「食事との相性」にあります。けっしてホップがガツンと主張するようなタイプではなく、ベルジャン酵母由来の味わいが魅力であり、モルトもやや控えめに味わいを演出しています。
酵母から引き出されたフルーティーな柑橘香やハーブの香りがホップのフレーバーと一緒になり、それがどちらからの香りか区別がつかないほどの自然な調和を生み出しています。
リフレッシングな飲み口に加えて、キリっとドライなキャラクターや酵母のニュアンスが、様々な料理との相性を高めています。例えば、地中海料理のような魚介を使った料理や鶏肉料理はもちろん、ハーブやスパイスが効いた料理やフライなどにもよく合います。
この一期一会をより本格的なものにできる要素が挙げるとすれば、それは本国ベルギーが生む素晴らしいセゾンとは異なり、他の現代的なクラフトビールと同じように、強制的に炭酸が加えられてれいる点です。本場のセゾンは、容器の中で再発酵が行われ、その過程で自然な炭酸を得ることが一般的です。
では今回、一期一会にくわえる変更は、3つの定番ビールの内で最も控えめなものですが、それでも大きな改善になると考えています。変更点は以下の通りです:
①本格的な二次発酵製法
缶ビールにのみ、充填前に追加で酵母と糖を追加し、缶内での二次発酵を行うことにしました。(日本の酒税法により、この製造法をとる一期一会は、ビールではなく”発泡酒”扱いになります。)
ではこれによってどのような効果が得られるのでしょうか?
以下の2つの利点があります:
■ビールが劣化に強くなる
劣化の原因となる缶内の溶存酸素を少なくすることができることから、酸化に強くなり、当然ながらビールの保存期間が延びます。また、将来的には冷蔵保存ではなく、常温(冷暗所)での保管ができるようになる可能性も出てきます。
■ビールの特性が変化する
炭酸度が高まり、時間の経過とともにビールが熟成することで、味わいの深化を期待できるようになります。これ点が、私たちがベルギーの偉大なセゾンに魅了される理由のひとつです。ワインやシャンパンのようにボトルの中で熟成されるセゾンは、時を経るごとに複雑な層を感じさせる味わいに成長するのです。
②ホップのアロマをより華やかに
一期一会のフルーティーな味わいを造るホップの品種であるカスケードとモチュエカは変更していませんが、昨年訪問したニュージーランドとアメリカで選び抜いた同種の最良ロットを採用しました。これにより、柑橘香やトロピカルなアロマがよりいっそう引き立つようになります。
③モルトについて
より品質の高い小麦モルトを採用することで、口当たりが一層丸く柔らかになります。
④アルコール度数について
5.5%から5%に少し軽くすることにより、飲みやすさがさらに向上し、日本で一般的に楽しまれている料理とのペアリングを意識しました。
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週休6日
遡って、このビールが最初に構想されたとき、そのさらに何年か前に行ったベルギー旅行で出会ったアメリカンハイブリッドビールについて思いを巡らせていました。低アルながら、驚くほど豊かなフレーバーが詰まったビール。それを目指してできたのが週休6日です。
さまざまな試行錯誤を経て、最終的に次の2種類のホップを選びました:
・シトラ(アメリカ産)
・エクアノット(アメリカ産)
シトラは、知る人ぞ知るパンチのあるシトラス香(特にピンクグレープフルーツのフルーティーさ)とトロピカルな味わい・香りが特徴です。もうひとつのエクアノットは、さらにシトラスの要素(特にレモンやライム)を持ち、加えてベリーやライチのような魅力的なニュアンスを加与えてくれます。
しかし残念なことに、年を追うごとにエクアノットはそのキャラクターがみるみる変化し、少し草っぽいハーブ的な香りが強まってきました。そのため、ホップ農家も次第にエクアノットの生産量を減らしつつあるようです。
そこで私たちは、元の週休6日のキャラクターを意識し、昨年のホップの買い付けで得た経験を踏まえ、次の新たな3種類のホップを採用することに決めました
・シトラ(アメリカ産)
・ワイメア(ニュージーランド産)
・シムコー(アメリカ産)
まず、シトラの柑橘系やトロピカルな要素を強化するために、トロピカルな香りとグレープフルーツ系の特長で知られるワイメアとライム、パッションフルーツ、松脂のような魅力的な香りで知られるシムコーを採用しました。
その結果、週に6日飲んでも飲み飽きないというオリジナルのコンセプトをそのままに、仕事終わりに1本(と言わず何本か)飲んでも罪悪感を感じない、ドライでインパクトのある軽めのビールが完成しました。
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一意専心
このビールの最初のコンセプトは、私たちのハウスイーストであるベルジャン酵母のキャラクターと相性の良いさまざまなホップを組み合わせたIPAをつくることでした。ベルジャン酵母によるキリっとドライな後味が、ついもう一杯とついつい手を伸ばしてしまうような心地よい仕上がりもポイントでした。
初期の一意専心には、アメリカとヨーロッパの品種を組み合わせた6種類のホップを使用していて、土っぽさやコショウ、ハーブのような香りに、オレンジやグレープフルーツといった柑橘系のフレーバーが絶妙に混ざり合い、絶妙な味わいのベルジャンIPAでした。
その後、缶の販売開始と同時にレシピをアップデートした際、使うホップ量はそのままに、以下の2つのアメリカ産の伝統的な品種に絞りました。
・カスケード
・センテニアル
これらのホップはいずれも、比較的シャープな柑橘香、特にグレープフルーツやオレンジのキャラクターを持ち、酵母が生むアプリコットのような味わいととても相性良く、効果的に使われていました。
では、この度のレシピ変更で一意専心はどう変わるのか。
「ホップ + ベルジャン酵母の相互作用」という元の精神はそのままに、ただ柑橘系キャラクターを担う役はもう一つの定番「週休6日」に任せることにし、一意専心には”トロピカル”なフレーバーをたっぷりと与えたいと考えた末に、次の3つのホップを選びました。
・モザイク
・リワカ
・ラカウ
厳選したアメリカ産モザイクは、インパクトのあるブルーベリーやメロンのようなキャラクターをもたらします。これにニュージーランド産リワカのパッションフルーツやパイナップル、シトラス系のアロマを加え、極めつけのニュージーランド産ラカウが、酵母由来のプラムやアプリコットのようなフレーバーをしっかり下支えし、まとめ上げます。
アルコール度数は6%と、IPAとしてはやや控えめですが、ホップの特徴であるトロピカル、ベリー、ストーンフルーツのフレーバーをしっかり堪能でき、飲みやすさとのバランスを考えると、最適な度数といえるでしょう。
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ビールに変更が加えられる際、特に定番商品や主要シリーズのビールにおいては、いろいろな懸念が生じることはわかっています。なぜなら、ビールは繰り返し飲んで楽しむものであり、その味に対して親しみを感じてもらっていることが多いので、それを変更するというのには常にリスクが伴います。
たとえ新しいバージョンが以前よりも良く、改善されたとしても、やはり慣れ親しんだ元のバージョンがよかった!という愛着があるかもしれません。しかし、私たち京都醸造は、常に進化することを意識し、人としても会社としても成長し、改善を追求することを信条としてきました。そして4年前にもお伝えしたように、私たちは安全策を取るよりも、自分たちが飲みたいと思うビールを造るという信念に従いたいと考えています。
これまで定番の一期一会、一意専心、週休6日を支持してくださってきた皆さまに感謝しています。そして、今回私たちがアップデートした定番ビールもひきつづき気に入っていただけることを願っています。
新定番3種は、装い新たに2月発送開始です!乾杯!