仲間と造る W/ Ape Brewing

遡って2021年が始まったころ、2人の経験豊富な醸造メンバーがそれぞれの新しいステージでの挑戦に向けて京都醸造を去ることとなり、ぽっかりと開いた大きな穴を埋めてくれるような人材を探し始めていました。そんな中、創業以来お世話になりっぱなしの箕面ビールの香緒里さんからの紹介で、松本勇士さん(愛称「まっちゃん」)と出会うことができました。彼はその時、過去数年間在籍した箕面ビールを後にし、自身の道を歩む準備をしていた醸造家でした。以前、京都醸造と行ったコラボレーションで既に彼の存在を知っており、香緒里さんからも高く評価されていたので、経験豊富で頼れる存在を得る機会に恵まれたのは、これ以上ないほど嬉しいことでした。

当初、まっちゃんには彼自身の醸造家としてのプランや夢があることを知っていたので、人材を欲していた京都醸造に短期間のサポートとして参加することは、双方にとって良策でした。しかし、時間が経つにつれて、彼は状況を柔軟にとらえ、しばらく私たちの元に留まることを決め、当時私たちを喜ばせてくれたのを記憶しています。その後、醸造チームの主要なメンバーとなり、その豊富な知識、勤勉さ、そして新しいことを喜んで引き受ける前向きで柔軟な姿勢が彼の大きな強みとなりました。それだけでなく、彼がいるだけで職場の雰囲気をぱっと明るく、元気にしてくれるムードメーカーでもありました。


そうして、京都醸造で活躍していたまっちゃんですが、ある日、自身の思い描く道にそろそろ進みたいと私たちに告げ、去る決断をしました。私たちはもちろん非常に寂しく感じました。しかし、彼が私たちのチームに加わったときから既にはっきりと見据えていた目標に向かって歩むというのは、彼にとって何よりも大切なことだと理解していました。その目標は、新しい醸造所を立ち上げる経験をし、なおかつその中で美味しいビールを生み出すクリエイターとして活躍したいというものでした。

彼が京都醸造を後にし、新しい活躍の場を得たのは、加藤さん率いるイエローエイプが新しく始める醸造所で、そこで実際に醸造所の立ち上げに関わる貴重な機会を得ることができました。イエローエイプは、大阪のクラフトビールシーンの黎明期から多くのファンたちに支持されつづける有名なビアバーで、私たち京都醸造も醸造所立ち上げの際に加藤さんにはいろいろ助けてもらいました。それ以降今日に至るまでイエローエイプは、私たちの大切なお客様として関係を続けてくださっています。

私たちは、まっちゃんが加藤さんの元で新たな挑戦に取り組むと聞いたころからワクワクして、まっちゃんが造るビールを試す日が来るのを首を長くして楽しみにしていました。そして、無事に醸造が始まり、一番最初に飲ませてくれたのが、驚くことではありませんが、イングリッシュビターでした。元々このスタイルが彼のお気に入りであることを知っていた私たちは、特別思い入れも強く、バッチリ仕上げてくるだろうと確信していました。そして、まっちゃんらしく期待を裏切らず、素晴らしい出来でした。

Ape Brewingは小さな醸造所ですが、その後も幅広いスタイルのビールを高いレベルで作り続けています。(ぜひ訪れて、出来立てのビールを飲んでみてください!裏切りませんよ!)

現在、私たちは怒涛の如くたくさんのコラボレーションを進めていますが、中で2つに分かれています。一つは、過去にコラボしたことのある国内の醸造所(ただし、昨春に加入したヘッドブルワーのジェームズにとっては初めてのコラボ)や、初めてコラボする醸造所との取り組み。もう一つは、KBCのOBOGシリーズとして、かつて私たちと共に働いていたブルワーとのコラボレーションです。(第一弾のミルクスタウト「二都物語 with 奈良醸造」や、第二弾のバーレーワイン「狐火 with 家守酒造」もぜひお試しください!)

そして今回、OBのひとりであるApe Brewingのまっちゃんとビールを造りました。まず、大阪にある彼らの醸造所で造るビールについては、私たちが普段使う酵母を使ってIPAに挑戦することになりました。(これもぜひApe Brewingで試してみてください!)。その一方で、私たちの醸造所でのビールは、そう!、もうお気づきの方も多いと思いますが、まっちゃんお気に入りのイングリッシュビターを造ることになりました。ただし、さらに一歩進めて、より強く、モルトの個性をしっかり持たせたスペシャルビターに挑戦しました。

ロンドンエール酵母のフルーティーな特性がモルトの味わいをぐんと引き立てるように働き、マリスオッター麦芽を中心に据えながらも、他の4種類のモルトブレンドがイングリッシュビターに求められる絶妙な複雑さを再現してくれました。ホップは英国の伝統的な品種にこだわり、イーストケントゴールディングスとファグルを使用。それにより、バランスの取れた苦味と豊かなハーバル香を加えました。このホップの個性がモルトと酵母の特性と驚くほどにうまく調和し、最初の一杯として最高に美味しく飲めるのはもちろんのこと、二杯目、三杯目も飲みたくなる一品に仕上がりました。

キラキラしたような派手さはなくちょっと渋めのスタイルですが、かつてのまっちゃんがすっかり虜になったように、飲めば飲むほど好きになるような純粋な美味しさを感じられるビールということから、ちょっと遊び心を加えて、「〼〼ハ〇(ますますはまる)」と名付けました。(〼〼ハ〇は、1/12にKBCオンラインショップにて発売、1/15発送開始)

かつての同僚たちに乾杯、新たな挑戦に乾杯、そして長年の友人たちに乾杯!