仲間と造る W/ KYOTO BEER LAB

京都醸造10周年記念イベント「なみなみと」まで1か月を切りました。このイベントに今回参加してくれる20のブルワリーそれぞれとのコラボビールをすべて間に合わせるべく、現在も日本国内を縦横無尽に動き回る日が続いています。

長距離の移動が続くとなかなかハードなところがありますが、それでも仲の良い醸造家仲間たちと再会できるのは嬉しい限りで、刺激もたくさん受けています。そんなコラボツアーも、これを書いている時点で、残すところあと3つとなりました。

さて、今回は「Kyoto Beer Lab(以下KBL)」とのコラボについてご紹介したいと思います。

KBLは、京都市内を流れる鴨川に沿って五条通から七条通の間を指す通称「五条楽園」と呼ばれる地域に2018年にオープンしたブルーパブ。ここはかつて、その名前が表すように遊郭などがあった夜の街でしたが、この20年ほどの間に市による大規模な再開発が行われ、今ではすっかり雰囲気が変わりました。(ちなみに私ポールは、この五条楽園に9年間住んでおり、個人的にもとても思い入れのあるエリアです)

そんな変化する街の一部としてクラフトビール醸造所を起ち上げたのは、共同創業者であるオーストラリア人のトム・エインズワースと村岸秀和さんでした。村岸さんは自身のNPOを通じて、京都の和束地域の町家古民家を改修するボランティアチームとともに活動していました。地域の人々、特に多くのお茶農家さんたちとの交流を深める中で、和束の名産品であるお茶をもっと多くの人に知ってもらう方法を模索するようになり、「ビールがその手段として最適なのではないか」と考えるようになります。

そこで彼は、常陸野ネストで知られる茨城の木内酒造の協力を得て、まずは委託醸造という形でビール造りを始めます。最初のビールは、緑茶を使ったIPAでした。その後、自身のブルワリーを立ち上げたいという思いを強くしている最中に、トムと出会います。トムは、シドニーにあるThe Grifterという醸造所で夏の間インターンを経験し、日本で本格的にブルワーとして活動したいと考えているところでした。

彼らは、前述の五条楽園の中でも、ちいさな運河、高瀬川がさらさらと流れる袂にいい物件を見つけ、KBLを開業させました。200Lの小型醸造システムを奥に設置し、道に面した前半分にはタップルームを設けることで、出来たビールをできる限り近いところで楽しめるというスタイルを採用。定番の茶ビールの種類を増やしながら、様々な単発の限定ビールも積極的に醸造しました。

開業してからの2年間はこのビジネスモデルがうまく機能し、地元の人々だけでなく、国内外からの観光客がKBLを訪れ、街の真ん中にいながら出来立てのビールを楽しめるスポットになっていました。しかし、コロナの影響でそのビジネスモデルに突然急ブレーキがかかります。KBLを訪れる人が激減し、造ったビールを販売する目途が立たなくなりました。そこで急遽、ボトルビールの製造・販売に舵を切り、瓶詰めや栓打ちはすべて手作業で行われ、非常に手間のかかる作業でしたが、苦しい状況の中で会社を維持するために必要な取り組みとして、歯を食いしばって頑張ったようです。

幸いなことに、コロナは次第に収束し、KBLを訪れる人が戻り、今では再び多くの人で賑わうようになりました。しかし、それまでの数年、国境が閉ざされたような状況で、地元の人たちも気軽に外でお酒を楽しむことを避けていた間は、KBLにとって相当厳しいものでした。その中で、彼らは補助金などをうまく活用し、ビール製造に特化した第二の拠点を構えることを決断しました。こうして2024年4月に京都中央卸売市場近くに誕生したのが「KBL THE GARAGE」です。

彼らは、製造力をアップさせるために500Lの醸造システムを導入し、定番である和束茶を使ったビールの製造をこの新しい施設に移し、また、醸造チームの増強も行いました。KBL本店のヘッドブルワーには、同じくオーストラリア出身のレオンが就任し、KBLガレージのヘッドブルワーにはあゆみさんが任命されました。

さぁ、そんな勢いに乗るKBLと京都醸造はどんなビールを一緒に造るか、トムとレオンと話し合ったとき、やはり彼らのオリジンであるオーストラリアからインスピレーションを得たものにしたいという話になりました。また、KBL側で造るコラボでは、彼らの設備が比較的小回りの効く小規模なものであることを活かして、私たちの醸造所ではなかなかできないような、少し冒険的なビールを造ろうと考えました。

まず、京都醸造側でのコラボでは、ベンがオーストラリア特有のハーブについてリサーチしていたところ、「レモンマートル」という植物を見つけました。グァバなどのフトモモ科の植物で、レモンではないのですが、強く爽やかなレモンのような香りのする精油をもつことで知られています。これを使って、京都醸造ではあまり見かけないビアスタイルに挑戦しようということになり、それで挙がったのが「ハイマブリッグ(Heimabrygg)」という、ノルウェー発祥の伝統的なファームハウスエールでした。

この多くの人にとって馴染みがないであろうビールは、新鮮なジュニパーベリーを摘み取り、それを煮出して香りを摘出したもの使ってビールを仕込むというのが特徴です。私たちもこの伝統的な製法に沿って、ジュニパーベリーと、トムとレオンがオーストラリアからわざわざ運んできてくれたレモンマートルを煮出して、ビール造りを行いました。

ビールは、仕込み前半には淡い色合いでしたが、伝統に従い、通常1時間の煮沸工程を3時間に延長し、この長時間の煮沸により、麦汁の水分が飛び、糖分が濃縮されることで、綺麗な琥珀色になり、キャラメルやトフィーのような滋味深い風味が加わりました。

発酵には、ノルウェーのヴォス地方に由来する「クヴェイク酵母(Kviek)」を使用。非常に高温で発酵させることで、トロピカルなフルーティーエステルが生まれます。

最終的にできたビールは、キャラメルのような甘みと酵母由来のトロピカルな香りに、ジュニパーのスパイシーさとレモンハーブの爽やかさが絶妙に合わさった芳醇な一杯に仕上がりました。このビールには、トムとレオンの話から着想を得て「ワニの涙」という名前を付けました。(由来についてはこちらを参照→「ワニの涙」商品ページへ

一方で、KBL側のコラボビールでは、何を造ったのでしょうか。目を付けたのが、オーストラリアで人気のデザート「パブロバ」。有名なロシアのバレリーナ、アンナ・パブロバにちなんで名付けられたお菓子で、メレンゲをベースに、クリームやナッツ、フルーツをのせた風味豊かなものです。

私たちはこのパブロバの要素を分解し、それぞれを活かした2種類のビールを造ることにしました。単体でも楽しめ、ミックスしても美味しいというコンセプトで、造ったのは、パッションフルーツのサワーエールと、酸味のあるピスタチオクリームエールです。

KBLガレージでは、トムとあゆみさんと話す中で、「京都醸造らしいベルジャン酵母を使ったビールを造りたい」、「直接買い付けをしているニュージーランドホップを使いたい」という希望があり、最終的に、「ホッピー・ベルジャン・ストロング」を仕込むことに決めました。さぁ、どんな出来になったかは、ぜひKBLに足を運んで、彼らと造ったコラボビールもチェックしてみてください。

京都醸造側で造ったノルウェイジャンファームハウスエール「ワニの涙」は、京都醸造オンラインショップ、タップルーム、全国の取り扱い店で販売スタートしています。こちらも見かけたら、ぜひお試しください!