仲間と造る w/ Black Tide Brewing
京都醸造10周年記念イベント「なみなみと」開催まで、いよいよあと3週間となりました。イベント担当メンバーが日々忙しく、準備に奔走してくれているおかげで、当日皆さんをお迎えするイメージの解像度が次第に上ってきました。私(ポール)としては、イベント参加予定のブルワリー20社とのコラボに昨年から取り組んできましたが、最後1つを残すところまで完了し、ラストスパートといったところ。あとは、イベント当日に向けた最終的な準備と、お天気を願って祈るのみです。
さて、今回の投稿では、気仙沼のBlack Tide Brewing(以下、BTB)とのコラボレーションについてご紹介したいと思います。

2020年に創業し、今年5周年を迎えたBTBは、最初、造るすべてのビールを樽で販売し、レシピの調整や需要の把握ができたタイミングで徐々に缶へ移行するという構想を描いていました。しかし、これまでにも他の醸造所についてのブログで度々書いてきたように、猛威を振るったコロナは、クラフトビール業界に大きな影響を与え、BTBの計画もご多分に漏れず、大きな変更を余儀なくされました。
全国的に営業自粛する飲食店が多数を占め、樽の需要がほぼ完全になくなった状況を受け、BTBは樽販売の計画を中断、なんと最初のバッチの全量を缶で出荷するという判断を迫られました。さらに、当時はまだ市場での認知度も確立していなかったことから、定番商品よりも1回限りの限定醸造を中心とした展開を選択することに。

それ以前に、まず彼らが醸造所の場所として選んだ地は、2011年3月11日の東日本大震災と津波によって大きな被害を受けた、宮城県気仙沼市。震災の後、政府は被災地復興の一環として新事業立ち上げを支援するための基金を設立しました。この呼びかけに応えたのが、「被災地をクラフトビールの醸造所を立ち上げて盛り上げよう」というビジョンを持った3名でした。
- 千 倫義氏 – プロダクトオブタイムグループの代表(全国に飲食店・居酒屋・ビアバーを展開)
- 菅原 昭彦氏 – 男山株式会社の代表(19世紀半ば創業の歴史ある気仙沼の酒蔵)
- 田嶋 伸浩氏 – クラフトビール専門誌『Transporter Magazine』の創刊者
この3名が中心となり、資金調達やチームビルディングを行い、醸造所設立の構想を現実のものにしようと動き始めました。まず必要だったのは、ブルワリーの肝となる醸造責任者の選出。そこで白羽の矢が立ったのがジェームズ・ワトニー氏(以下、ジェームズ) です。

ジェームズは、その当時アメリカ・オレゴン州ポートランドで化学系の研究者として働いていました。また、趣味として13年もの間ホームブルーイングに取り組んでいた熱心なクラフトビール愛好家でもありました。ちょうどその時、彼は企業勤めからの転職を考えており、「もっと意義のあることに挑戦したい」と奮い立ち、たまたま目にしたBTBの創業チームの募集に応募。すると、見事に採用され、BTBの“顔”の一人としてメンバーに迎え入れられました。

醸造所の拠点となる場所が確保された後、創業チームはジェームズのサポート役としてもう一人のメンバーが必要だと考えていました。そんな中、ホンダで研究開発部門の仕事に就いていた丹治和也氏が、BTBの応募を見かけ、コンタクトをとってきました。彼はすべてを投げ捨てるような覚悟で、迷わず東京行きの深夜バスに飛び乗り、BTBの創業チームと会ったそうです。 そこで、クラフトビールに賭ける想いを語り、その熱い情熱はBTBチームにしっかりと伝わり、丹治氏は2人目の顔としてメンバーに迎え入れられることになりました。
こうしてクラフトビール愛に溢れるチームメンバーが揃い、「Brewed with Pride in Kesennuma (気仙沼の誇りを込めたビール造り)」を合言葉に、Black Tide Brewing は本格的に美味しいビール造りを始めることになります。 それから5年が経ち、現在BTBは気仙沼市内に2つ目の醸造所を建設中で、来年初めの完成を予定。また最近、仙台市内に自社のタップルームもオープンしました。

そんな順風満帆で忙しい日々を送るBTBとコラボレーションでビールを造る機会に恵まれたことに私たちはとても嬉しい気持ちです。きっかけは2年前から、アメリカやニュージーランドのホップ農家を訪ねる旅に彼らも同行するようになったことからで、その旅を通して彼らとすっかり仲良くなりました。
今回、どんなビールを一緒に造るかを考える中で、昨年9月にアメリカでホップの収穫に立ち会ったときのことを思い出しました。ちょうどその際に、BTBのジェームズが「Crystalというクラシックなアメリカンホップが過小評価されている」と語っていたのです。Crystalは1980年代にドイツのノーブルホップの代替品として開発されたホップで、ラガーにぴったりなフローラルやハーバルな香りを持つのが特徴です。

今回のコラボでは、このCrystalを主軸にしたクラシックなウエストコーストスタイルIPAを仕込むことにしました。これにはColumbus、Centennial、Citraといったいわゆる「Cホップ」も組み合わせることで、かつてアメリカを中心に世界を一世風靡したIPAを意識しました。Crystal由来のフローラルや松の香りに加えて、シナモンやナツメグ、ブラックペッパーのようなスパイス感。そこにCホップ由来の柑橘や花、トロピカルなニュアンスが折り重なり、味わい深く、バランスの取れたIPAに仕上げることができました。
このビールには、トレンドの移り変わりの早いクラフトビールシーンですが、本当に良いものは巡り巡ってまた戻ってくるという真理と世界中を力強く流れる海流を連想し、「流るる潮(ながるるうしお)」と名付けました。世界のクラフトビールシーンが海流のように変化し続け、また巡って戻ってくるというコンセプトは、時代の流れに埋もれてしまっているCrystalホップの素晴らしさを説いたジェームズの言葉、そして世界最強の海流のひとつである「黒潮」を醸造所の屋号にしたBTBの思想にも深く組み込まれているのかもしれません。 (「流るる潮」はKBCオンラインサイトで販売中!詳しくはこちら。また、KBC周年イベント「なみなみと」でも提供予定)

さて、BTB側のビールについてですが、ジェームズはKBCのハウス酵母(ベルジャン酵母)を使うことを希望し、ベルジャンスタイルのビールを造るというアイデアにワクワクしていました。そして、私たちが一緒に旅をした中で選んだホップの中から、彼はニュージーランド産のRiwakaを中心に据えたいと提案がありました。Riwakaは、パッションフルーツや柑橘のパンチの効いたアロマがあり、私たちも大好きなホップです。
そこからさらに一歩踏み込んで、今回はRiwakaの派生品種である「Eggers Special」を使うことにしました。これは、ニュージーランドの私たちの友人であるEggers Hops社が栽培し、製造している特別なRiwakaで、2024年9月、BTBとKBCが日本で初めてEggers Hopsを採用した2つのブルワリーとなりました。特にこの年のEggers Specialは、素晴らしい品質で、年度の最後の方の収穫のロットが、パイナップルや鮮烈なライムピールのようなアロマがパチンと音をたてて弾けるように感じられるような印象です。

BTB側で造ったビールは、現在まだ発酵過程の最中で仕上がっていませんが、一般販売に先行して、「なみなみと」での提供を予定してくれているそうで、ジェームズからは「イベント当日までには間に合わせる!」と力強い言葉がありました。楽しみです!
また、BTBでも5周年を記念したコラボ全国ツアー『 黒潮大蛇行 』も開催されます。5月31日から6月7日にかけて、日本全国5都市(京都・大阪・名古屋・東京・仙台)で️特別イベントが催されますので、ぜひチェックしましょう!

