六味六色

2020年は皆さんにとっても私たちにとっても激動の一年でしたね。ブログでも掲載していますが、2021年からは京都醸造の運営を一新することにしました。その一つは、既存のラインナップに対してもそれらの存在意義を考え直し、新たなシリーズ創設を決断したことについてお伝えしたいと思います。先週「ご地愛」シリーズを紹介し、今週「六味六色」シリーズについてお伝えしたいと思います。

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振り返る

言うまでもありませんが、京都醸造はIPAが大好きです。一番初めにリリースした「はじめまして」はアメリカンIPAでしたし、このスタイルはベルジャン酵母もアメリカン酵母も使う醸造所にしたいと思った大きな理由でした。創業当初から、気まぐれシリーズとして、IPAが常にラインナップにあるようにしてきました。さらに限定リリースの多くもIPAをテーマに、いろいろなものを造りました。

ここ5年で、様々なIPAと市場での反応について、2つのことが浮かび上がりました。1つ目は私たちの商品に関することで、成功したものには明確な目的と存在理由があったことです。2016年にリリースした「つかまえて」シリーズがいい例です。それぞれのリリースで小麦、オーツ麦、ライ麦といった異なる穀物に焦点を当て、IPAを表現しました。他には、IPAをとおして柔らかさを表現することを探求した「柔」があります。

2つ目に気付いたのは、外部環境の変化でIPAが均質化していることです。IPAというのは、ブルワーのイノベーションや顧客の嗜好によって常に変化し続けるものです。初期のアメリカンIPAは、クラフトビールブームの発端となったペールエールの延長で、しっかりとしたモルトをベースに、柑橘や松のようなガッツリとしたホップの特徴がありました。ダブル、トリプル、インペリアルなどを冠したIPAが台頭するにつれ、IPAはホップをどれだけ入れられるかの競い合いのようになりました。つまり、ホップが入っていればいるほど(苦いほど)いいということです。最終的に飲み手はそのような極端な味わいに飽き、飲みやすくバランスのよいものが追及され始めました。しばらくはアルコール度数が低いIPAが大流行し、続いてブラックIPA、レッドIPA、ホワイトIPAが続きました。中にはサワーIPAやミルクシェイクIPAといった少し変わったものもありますが、最終的にIPAの嗜好は、今やそのスタイルを象徴する、苦味が少なくてホップのフレーバーとアロマがしっかりしたものに落ち着きました。

残念なことに、このようなIPAとなると、どのブルワリーもヘイジ―IPAを造るばかりで、スタイルが均質化しています。もちろんよくできたヘイジーIPAはおいしいのですが、表現される味わいの幅がせまくて、ほとんど違いがわからないように感じるのは私たちだけだろうか…とよく思うのです。正直なところ、ブルワリーが最新リリースのヘイジ―IPAをアピールするために異なるホップの組み合わせで造っていても、「それがどれだけビールの最終的な味わいに変化をもたらしているの?」と感じてしまいます。

こちらのシリーズについて

このような疑問が、「六味IPA」シリーズを生み出すきっかけとなりました。IPAの味わいがこれほど偏るようになるにつれ、様々なIPAをとおして六つの味覚(甘・酸・塩・辛・苦・旨)の表現を探求することで、このスタイルにはもっと色んな可能性があることを思い出してもらえるのではと思いました。そのため、このシリーズの新作は年間を通じて定期的に発売し、それぞれ異なる味わいを追求します。

どうやって目標を達成するのか

辛味というのは唐辛子の辛みなのか?あるいは山椒のしびれるような感覚なのか?カレーの様にブレンドしたスパイスのような感じか?こういった要素はすでにこのスタイルにあるか?もしそうなら、どうやって新しい方向に持っていこうか?苦味は当然ホップの構成要素だけど、IPAになくてはならないだろうか?ホップ以外のもので苦味を付けたらどうなるだろう―それでもIPAと言えるのか?これは私たちが新しい商品を造るたびに考えることの一例です。

まとめ

右に倣って他のみんなと同じようなやり方でIPAを造れば楽ですが、新しく、難しく、挑戦的なことを目指すほうがずっとやりがいがあります。ブルワーもお客様も賛否両論分かれるようなリリースもきっとあるでしょうが、もし、私たちのビールがIPAとは何たるやという議論を巻き起こしたり、誰かが将来のIPAを生み出すきっかけになれば、目標を達成できたことになります。フレーバー探求の旅に出かけましょう!