スポットライト - Grape Republic
つながり
今年になって展開するKBC2.0と冠したミニシリーズで、私たちを惹きつけてやまないニュージーランド産ホップを取り上げる目的でいくつかのビールを造ってきました。
まず、Freestyle社独自のホップ品種、Peacharineを取りあげた「ドンブラコラガー&IPA」や最近リリースしたペールエール「もものふ」があります。このホップは、ストーンフルーツ(特に桃)のような特徴で知られています。次に挑戦したのがMotueka。このホップは早期に収穫されるとライムのような香りを持ち、遅めに収穫されると濃厚でトロピカルな香りが強くでる特徴があります。そして2024年を締めくくるのは、Nelson Sauvinに焦点を当てた「豊醸」です。
ネルソンソーヴィンという名前は、そのフレーバーとアロマがソーヴィニヨン・ブランというワイン用のぶどうに似ていることから名付けられました。2000年代初頭に発明されたこのホップは、そのぶどうっぽい特徴がビールのそれからはあまりにかけ離れていることを理由に、大手からは敬遠されましたが、クラフトビールの醸造所はいち早く目をつけました。
ネルソンソーヴィンをとりあげた3部作「豊醸」の最初のビールでは、このホップそのものの魅力を引き出し、ベルギー酵母との相互作用を狙ったペールエールを造りました。そして当シリーズの2作目と3作目では、国内の新進気鋭のワイナリー「Grape Republic」のぶどうを使ったビールを造ることにしました。
話が前後しますが、ニュージーランドへのホップ買い付け旅行の準備しているときに、ホップ生産者のFreetyle社のある丘陵の横に、Kindeliワインという著名なノンインターベンショニスト(非介入主義で経営する)のワイナリーがあることを知りました。
ノンインターベンショニストワインは、スーパーなどで購入できるワインや、大規模に生産されるワインとは異なり、発酵を促進するための糖分や、発酵を止めるための硫黄、保存期間を延ばすための添加物を一切使用していない無添加のワインを指します。この考え方は、ワインが、その土地で育てられたぶどうを使い、味わいの中で「テロワール(風土)」を真に反映されていることを目指したものです。
Kindeliワインについて調べる中で、ニュージーランドでAlex Craigheadという方によって立ち上げられたのですが、日本でも山形を拠点とするワイナリー「Grape Republic」が、同じような思想をもったワインを造ることを目標に掲げ、真剣にAlexの軌跡を辿ろうとしていることを知りました。
その後、豊醸シリーズの企画が立ち上がった時、醸造責任者のジェームズから「高品質なぶどう果汁やぶどうの皮を調達することは可能か」と尋ねられ、真っ先にGrape Republicのことが頭に浮かび、次の瞬間には彼らに連絡を取っていました。
Grape Republicについて
Grape Republicは、山形県南陽市の丘陵地にあるぶどうの生産から自社で行うワインの醸造所です。
ワイナリー立ち上げのきっかけは、Grape Republicの代表の平さんの母方の実家がこの南陽市でぶどう農家を営んでいたことにあります。平さんはすでに山形を離れていましたが、東日本大震災の後、久々に訪れた南陽市の光景が昔と大きく変わっていたことに危惧を抱き、このワイナリーの立ち上げにつながったそうです。以前は見渡すかぎりぶどう畑が広がっていましたが、今は農家の高齢化が進み、耕作放棄地が広がっています。そこで、このエリアを「ぶどう」を中心にもう一度復興させたい、そんな想いから「Grape Republic」=「ぶどう共和国」ができたのです。
「Grape Republic」が目指す姿とは、「南陽市のテロワールを表現するワイン」。そのため、自社のぶどうは有機で栽培し、醸造過程においても極力添加物は使用しません。また、野生酵母を使用し、南陽市だから表現できるワイン造りを追求しています。
現在は、取締役兼醸造責任者の矢野陽之さんが中心となり、ぶどう栽培とワイン醸造を行っています。神戸出身の矢野さんで、もともとは市内のイタリアンレストランで働きながらソムリエ資格を取得。その後、ぶどうの栽培とワイン醸造の知識をさらに深めるため、イタリア、オーストラリア、そしてニュージーランドを訪れました。そのニュージーランドでは、KindeliのAlexのもとで学ばれたそうです。
その矢野氏が率いるGrape Republicでは、山形県南陽市のテロワールをそのまま表現するため、一貫して“Made from 100% Grapes”。それは、酸化防止剤はもちろん、糖や酸の添加も行わず、酵母は天然のものだけ、つまりぶどう以外のものを使わずにワインを造るということを実践されています。まさに日本のKindeliを志す代表的なワイナリーといえるでしょう。
今年、ホップの買い付けに訪れることになったニュージーランドを介して私たちは山形のGrape Republicを知り、その縁で彼らのぶどうとニュージーランド産のホップを使ったビールをつくることになりました。
プラン
ベルジャンペールエールに続く豊醸2種は、ネルソンソーヴィンと搾りたてのぶどう果汁と搾りかす(皮)を使った2種類です。1つは、スチューベン種を使った赤ぶどうサワーIPA、もう1つはデラウェア種を使ったインペリアルIPA。
収穫直後に、搾られたそれぞれの果汁に、フレッシュな香りが残った搾りかす(皮)も残して送ってくれました。この皮を煮沸段階に加えることにより、果皮のタンニンを抽出し、発酵後のビールにぶどう特有の心地よい香りを残し、果実味を楽しめるという仕掛けです。
自信を持って世に送り出すこのシリーズの3種類を、皆さんの手元に届けられるのを楽しみにしています。そして、将来また、一意専心なワインの作り手であるGrape Republicと一緒に仕事ができることを願っています。