缶に対する想い

どのような経緯で缶詰という選択肢に至ったのか:

2021年は私たちにとって劇変の1年としてスタートしましたが、その中でも、瓶から缶への移行というのは最も顕著な変化だったに違いありません。この大きな変化の背景には多くの要因があるものの、この緊急事態を脱するために必然的にしなければならない、というのがとても大きかったです。創業から2~3年はそこまで多くの瓶の需要を想定していなかったので、一時間に500本ほど詰めることができる瓶詰機を購入していました。しかしその当初は、飲食店向けの樽の需要が予想を遥かに超え、それはつまり瓶詰に充てるビールがそもそも足りない、という状況でした。

2017年後半から2018年前半にかけてようやく、生産量が需要に追いつき始め、瓶詰を開始することができました。この頃には生産総量も増加していて、前述の瓶詰機では瓶製品の供給を間に合わせるには能力が足りず、大変な思いをしました。そのため、数年間はタップルームでしか販売することができませんでした。

この問題を解決するための議論を交わしているところに、2020年コロナウィルスが猛威を振るい始め、迅速な判断が要求されることとなりました。全国の飲食店が自粛に追いやられ、樽の需要はなくなり、この小さな瓶詰機でできる限りまで詰めるしかありませんでした。これが決め手となり、アップグレードを余儀なくされました。その中で考えければならないのが、瓶のままにするのか、それとも缶を導入するのか、ということです。

社内の意見としては、缶を導入することに肯定的でした。缶製品がアメリカのクラフトビール市場を席捲してきたこと、よりクラフトビールを身近にしたこと、より経済的で環境に優しいものであるということ、を認識していたためです。しかし、日本では多くの消費者は缶に対する先入観は良くないもので、缶ビールは瓶ビールに比べて安価で劣るとされている、という印象でした。さらに日本のビール産業は依然として大手に集約しており、ロットサイズや保管に関する要件は小規模のブルワリーが許容できる範囲をかなり超えています。

また、品質に関して缶とボトルにはそれぞれの良さがあるため、それも悩みどころでした。缶は完全に光を遮断でき、そして時間の経過によるガスの漏洩を防ぐことができます。瓶は缶よりも硬さがあるので、酸化を防ぐための充填前の脱気が容易です。リサーチをして考え抜いた結果、Cask Global Canning Solutionsの充填技術を駆使すれば、缶製品のまま、酸化を防ぎつつ充填できるという確信がありました。

導入当初:

缶の導入が決まった直後から、できるだけ早く缶詰ラインを設置し、稼働することが大きな目標となりました。パンデミックはこの大きな一歩を踏み出させてくれるきっかけではありましたが、それと同時にこの計画を進めるうえでの大きな弊害でもありました。外国への出張が制限されていたため、エンジニアは私たちの工場に出向くことができず、その代わりに遠隔でのミーティングによって機械の調整を行うこととなりました。私たちがエンジニアの眼となり耳となり腕となり細かな調整を施しましたが、これがかなり難しく、はっきり言って苛立たしい作業でした。結果として、数々の不備を直すためにビールを2タンク分(≒缶8600本分!?)も流してしまうこととなりました。

最近の状況:

最初は設備に慣れるまで苦労をしましたが、Cask社をはじめ、同じような設備を使用している日本のブルワリーのサポートもあり、今では品質は大きく向上しています。(ありがとうTDM1874 &Two Rabbits!)溶存酸素をボトルと同じレベルに下げるための調整はまだ必要ですが、すでに業界標準のレベルまで近づいています。効率の観点からも、缶詰ラインに変更してよかったと本当に思います。今では、瓶詰時に必要としていた作業員と同じ人数で、一時間あたり2400本を、容器の設置から充填、ラベリングまでこなすことができます。いうまでもありませんが、これによって醸造チームの負担が大幅に軽減され、パッケージングに費やす味気のない時間が大幅に減りました。

これから:

第一の目標は缶製品が瓶製品と同等以上の保存性を保てるように充填の技術を向上させることです。つまり、賞味期限内であれば私たちが自信を持って提供できるビールを、皆さんが安心して手に取っていただき飲んでいただく、ということです。他には、飲み手の皆さんには直接関わることではないですが、主に私たちの精神衛生やコスト削減のため、より効率的に、ロスのない充填の方法を模索していきたいと思っています。

缶への切り替えは、短い時間軸ではありますが、本当に山あり谷あり波乱万丈でした。私たちのこの大きなうねりを皆さんも同じく楽しんでいただければ嬉しく思います。そして、一緒にまた新しい冒険ができることを楽しみにしています!