新シリーズ2022「古道をゆく -PILGIRIM'S RESPITE-」

これまで数週間に渡って、2022年のビールラインナップについて紹介してきました。

前回は「私たちが造りたいビールを造りたい時に造る」をコンセプトに2021年を通して幅広く数多くのビールを発表してきた「解放」シリーズからKBCにとって未踏の地だったラガービールを探検する「新天地」が新たなシリーズとして独立し、今年はさらなる深みを見せていくという話をしました。そして今回は、新天地と同じように「解放」から飛び出し、新たな発展を続ける「古道をゆく」について紹介したいと思います。

京都醸造のこれまでの道筋を知ってくれている方なら、私たちがどれほどベルギーの伝統的なビールスタイル”セゾン”に心酔してきたかもご存知のはず。醸造所を立ち上げた時、まだ多くのことが決まってない中でもセゾンを私たちの定番にしたい、という気持ちだけは固まっていました。そうして生まれた一期一会は今日でも私たち京都醸造を代表するビールとして存在しています。

一期一会はセゾンといっても、いわゆる伝統的な手法をとったものではなく、この現代にビール造りに取り組む私たちを表現したようなビールと言ってもいいかもしれません。伝統的なベルギービールの文化を踏襲しながら、同時に私たちを魅了していたアメリカのクラフトビール旋風の影響も加わり結晶化したものが、この現代風に再解釈されたセゾン、一期一会です。

しかし、セゾンというスタイルの奥深さは私たちの興味を惹きつけて止まず、一期一会に端を発した探求の道でこれまでさまざまなセゾンビールを生み出してきました。四季に合わせたセゾンを造る”春夏秋冬”というかつて取り組んだシリーズもそのひとつ。ベルギービールの神髄であるようなセゾン酵母が織りなす味わいの豊かさと他の要素(ホップなど)との相乗効果で千変万化するその個性に魅了されて、多くのセゾンを造りました。中でもクラシックなセゾンや冬に合わせたストロングセゾンはとてもよい出来で、大きな手ごたえを感じたのを覚えています。数年続いたこのシリーズ内ではケトルサワー製法を用いたセゾンやホップをたくさん使ったホッピーセゾンなど幅広くセゾンを造りましたが、最終的にはシリーズ発足時に思い描いていた展開にもっていくことは難しく、シリーズの核心の部分からの乖離も感じられたことから一度終止符を打つことにしました。

その後私たちは、常に古典・伝統からインスピレーションを受けたセゾンシリーズを再開する機会を探していましたが、コンセプトがより明白になるまでしばらく熟考を続けました。そして、最終的にボトルコンディション(瓶内二次発酵)を用いたセゾン造りに取り組むことを決めました。この製法では、ベルギーのセゾンにみられるようなシャンパンのようなドライで心地の良い泡を生み出すことができます。そこで、私たちが愛してやまない、本家本元のセゾンデュポンの樽とボトル、大ボトルと小ボトル、出来て間もない新鮮なものとそうでないものなど、いろいろ試しましたが、良い意味で予想を裏切られました。例えば、アメリカンIPAだったら新鮮な方が断然良くて、ボトルや缶より樽の方が風味も長持ちするというのが常識。ボトルコンディションのセゾンの場合は違う。より古く、特に大きなボトルのものが新しく、小さいボトルより美味しいという結果でした。

敬愛するデュポン社のセゾンを目指すということはありませんが、改めてクラシックセゾンの魅力に立ち返り、巡礼の旅をするように、歴史に裏打ちされたこのスタイルを探求することにしました。このシリーズには最初に造ったボトルコンディションセゾン「古道をゆく」の名前と冠し、いくつかのバリエーションのクラシックセゾンを発表していくつもりです。シャンパンボトル・樽ともに時間をかけて内部で二次発酵を促し、特徴のひとつであるきめ細かい泡を生み出します。また、その味わいは食事とも合わせやすく、気の置けない仲間たちと集まって楽しむにはこれ以上ないビールといえるでしょう。セゾンが持つ幅と深みを、そしてあらゆるシーンを華やかにするその魅力を「古道をゆく」シリーズを通して、皆さんに伝えられたらいいなと考えています。