新シリーズ2022「木霊 -Kodama-」
これまで数週間に渡って、今年新しく加わったシリーズを紹介してきました。
それぞれのシリーズはビールのスタイル、またはビールにまつわる文化をコンセプトにしています。今日紹介するシリーズは「木」と「熟成」に焦点を当てたものです。
元々ビールと木樽熟成は密接な関係があり、伝統的な技法を多く持つベルギービールも多分に漏れず、あらゆる方法で木樽を使ったビールの製造がおこなわれてきました。木樽でビールに熟成を施すには相当な時間がかかる割に、こと日本においてはあまりその価値というのは理解されていない印象があります。ビールをただ木樽に入れて置いておくだけかというと、実は骨が折れるほど手をかけてやらないといけないし、コストも高くつく。そして長い年月をかけたとしても美味しいビールに仕上がるかという補償もないという現実が木樽熟成には付いてきます。
では、そんな木樽を使ったビール造りに私たちはなぜ取り組むのか?
私たち、京都醸造が大切にしている基本的価値観のひとつに探求ーExplorationというのがあります。この木樽熟成というのは私たちの探求心を刺激し、ある種の聖杯のように多くの学びを与えてくれる存在だと考えています。通常のビール醸造とは違う技術を必要とし、大きな規模で取り組んでいる醸造所には必ずと言っていいほどその道の専門家がいて、樽ごとの熟成の進み具合を注意深く観察し、最高の味わいに持っていくためにブレンディングなどを施します。
しかし、ただ知らない領域への挑戦だけで取り組むことを決めたわけではなく、何と言っても出来上がってくる熟成ビールの複雑で味わい深く、多様な顔を見せる魅力に引き込まれた部分が大きいでしょう。木樽熟成というのはスタイルではなく、一般的にビールと呼ばれるものともまた一線を画した存在である。木樽熟成に使うビールには向き不向きがあるけれども、多くのスタイルのビールは熟成可能で、どういった木樽を使うかによっても仕上がりが違ってきます。つまり、木樽熟成と一言にいっても多種多様な味わいが存在するのです。木樽内のバクテリアがビールに作用し、独特の酸味を与える場合もあれば、元々ウィスキーに使われていた樽でインペリアルスタウトを熟成させた場合は、角が取れて魅力的な芳香をまとって出てきます。ステンレスのタンクでは叶わないような環境を木樽はビールに与え、入る前に比べて丸みや複雑さを感じさせる味わいに変化させる力があります。
醸造家による味わいのコントロールが効く通常のビール造りとは異なり、木樽の場合は樽の持つ個性やそこに棲む微生物による働きに委ね、託す領域が大きく、熟成後にどのような味わいの変化が起こったかによって、樽間でのブレンドを施します。しかし、最終的な唯一無二な味わいは酵母、微生物、木樽が作用しあって成せる創造物と言ってもいいでしょう。
私たちは木樽に宿る力がビールを特別なものに変えるということの神秘性から、これから造る木樽熟成を施したビールには「木霊(こだま)」というシリーズ名を与えることにしました。このシリーズで、私たちは新しい発見に学び、さらなる挑戦をしていく中で、その多くをもたらしてくれる木樽に宿った頼もしい存在に感謝しながら、夢に見るようなビールとの出会いを期待したいと思います。