構想からの計画、そして実現への確実な歩

これは全4回のブログ投稿の最後の回で、これまで「国内のクラフトビール業界の課題」、「小さな醸造所が成長するために何が起こる必要があると私たちが信じているのか」、そして「私たち自身がより大きな一歩を築くために何を計画しているのか」を皆さんにお伝えしてきました。第4回目は、「構想から計画、そして実現への確実な歩(あゆみ)」と題して、現在進行しているプロジェクトの現状をお知らせで締めたいと思います。毎度のことながら、少し長いですが、最後までご高覧いただけたら幸いです。

この一連のブログ投稿で何度となく登場する「クラフト」という言葉。一種流行語のようになり、巷でよく耳や目にすることも増え、商品価値も高まっているように感じます。元はものづくり、職人の分野でよく使われる言葉でしたが、昨今ではやはりアメリカ発のクラフトビールムーブメントがこの流れを大きく変えました。 「クラフトビール」ブーム以降、クラフトジンなどのスピリッツ系、さらには「クラフトコーラ」や「クラフトジンジャーエール」のようなソフトドリンクも幅広く販売されるようになりました。 ビールを含むこれらのほとんどは、大手とは言わないまでも大規模に事業化されていることが多く、大きな設備も必要であることを考えると、もはや”手作り”という意味合いよりも、天然素材や厳選された素材を使用することを強調しているように思われます。例えば、工業的に大量生産されたシロップではなく有機栽培された沖縄産サトウキビを使ったレモネードのように。何が「クラフト」であるかについては別段ルールのようなものはないため、どのように解釈するかは基本的に自由です。

言葉の解釈や定義についての議論はさておき、これまでお伝えしてきたように、私たちを含め、品質を重視し多様性に富んだクラフトビールが大きな岐路に立っていて、中小規模の醸造所がこれまでのように自由にクリエイティブな製品を造りながら消費者からの支持を獲得しつづけていくためには、大手のビールが幅を利かせる棚(ステージ)を目指さないといけないと信じています。これまでのように小規模でニッチなバーやレストラン、ボトルショップだけではなく、少なからずその地域の消費者が日常的に使う小売店やお店に進出する必要があるでしょう。

こうした状況の中で、小規模で独立した醸造所のビールの地位を確立するためには、幅広い食品や飲料に焦点を当てた流通業者や販売業者のニーズに応えることができる醸造所を増えることに一筋の希望を感じています。 そして、あらゆるニーズの中でも、まずは保存性の高いビールを求める声に応える必要があると私たちは考えています。国内のクラフトビール業界が抱える課題と、生き残るためのひとつの対策については、最初 2 つのブログ記事で言及してきました。 (その1:「国内のクラフトビール業界が抱えるジレンマ」、その2:「クラフトビールが生き残るためのひとつの風穴」)

では、どのようにこうしたニーズに応えるのか、を私たちなりに考えた末に出した答えは、「容器内二次発酵」でした。 それがどのように働くのかについて前回よりも少し詳しくおさらいしておきましょう。京都醸造の造るビールの中でも伝統的なビアスタイル・製法のもの、特にベルジャンスタイルの多くは、この容器内二次発酵によって常温保管が可能になるだけでなく、熟成による味わいの変化を愉しむことができ、より魅力的な製品になる可能性さえあると信じています。私たちはこれらの特別仕様の商品を少しずつ増やしていくことにより、取り扱い条件が厳しい京都市内の流通で要冷蔵&短い賞味期限の京都醸造のビールが候補にも挙がっていなかった状況を打破し、より広い範囲に販売網を持てるようになります。さらに、多くの流通・小売業社に小規模で独立したクラフトビールの価値を十分に知ってもらえる機会になり、業界が抱える課題に希望という風穴が開けられればと考えています。また、それをきっかけに他の要冷蔵の製品にも関心が広がることを私たちは思い描いています。こうした話についても、3 回目のブログ (「”新たな探究の旅へ”という次章」) で話をしています。

では、今回はもう少し具体的にどうやってこれを進めていくのかについて、お話をしたいと思います。

まずは容器内二次発酵がどのように働くのかを知らない方もいると思いますので、製造プロセスについてお話させてください。 まずは多くのクラフトビール醸造所と同じく、私たちがビールを製造する基本的な方法は次のとおりです。

ビール造りの最初のステップは、麦芽などの穀物を製粉することから始まります。そして、お湯と麦芽を混ぜ合わせて粥状のマッシュと呼ばれる状態にします。 このマッシュをある一定の温度帯に保つことで穀物に含まれる酵素の働きによりでんぷんを糖に変える糖化現象が起こります。 次に、マッシュから麦芽などの穀類を取り出し、残った麦汁にホップを入れグツグツと煮沸します。その後、麦汁を冷却し発酵用のタンクに移し、酵母を投入します。投入して間もなく、酵母による発酵が始まり、7〜10日間かけて酵母が麦汁内の糖を食べ、アルコールに分解していきます。その後2〜3週間の熟成を経て、 BBT (Brite Beer Tank)に移し、ビールに適切な炭酸の強さにするために、数日間かけてビールに CO2を送り込みます。そうしてできたビールを、樽と缶またはボトルに詰めて完成です。

二次発酵を施す製造工程も上記のものと大きくは変わりませんが、ビールにCO2を強制的に加える代わりに、容器内に少量の糖分を加え、ビールを缶/瓶/樽の中で数週間かけて二度目の発酵を促す点が異なります。その結果、酵母が糖を分解し、容器内で自然にCO2が生成されます。その過程で、容器内の酸素も消費されるため、風味の劣化につながる残留酸素が少なくなります。これは特に重要な相違点です。

ちょっとマニア向けな話にどんどん入っていきそうなので、話をいちど元に戻して、、、では、これを実現するには何が必要なのか?
まずは、二次発酵ができる設備が必要です。これを可能にするために、私たちは醸造所の道挟んで向かい側にさらに広いスペースを確保し、そこに温度管理ができるコンテナを数台設置しました(二次発酵は適切な温度下でのみ行われるので、温度管理が非常に重要)。これらのコンテナはつい数週間前に設置され、現在すでに運用開始されています。中ではいくつかの製品の二次発酵が進んでいます。 楽しみです。

ただし、容器内二次発酵にはこうした数々のポジティブな点がある反面、リスクも伴います。より高い温度で保管するということはビール内の酵母の働きが活発になり発酵が起こることを意味しますが、もし汚染があった場合には他の細菌や酵母も繁殖する可能性があることを意味します。また、十分な数の酵母が存在しない場合(または酵母の健康状態が十分でない場合やデンプンを糖に変換するのが少し得意すぎる 酵母が存在する場合)、ビールは炭酸不足または炭酸過多になる可能性があります。こうしたリスクを回避しながらプロジェクトを安全に進め、一貫した品質のビールを一定数量生産するために、製品分析機能を持った新しいQA/QCラボをこの秋に導入する予定です。

また、今年後半には脱気システムの導入を通じて、残留酸素のさらなる削減に努める予定で、さらには遠心分離機を来春に導入する予定です。これにより、タンク内のビールに残っている酵母をより適切に管理できるようになり、ビールの日持ちにいい影響を与えないいくつかの物質、特にホップや酵母の残留物を味わいを損なうことなく取り除くことが可能になります。

製品の品質に直接関係するわけではありませんが、いくつかの追加のタンクを導入することも決まっており、これによってより多くの新しいお客さまに製品を提供できるように製造の出力アップの準備も進めています。そして、製造が増えれば比例して増える麦芽粕についても、農家さんや植物園にひきつづき無理なく、活用いただくために新しくプレス機の設置を決めました(これまでに麦芽粕をひとつも廃棄せず醸造を続けてこれたことについては、また改めて詳しく取り上げたいと考えています)。

これで一連のプロジェクトに関する投稿は以上です。 最終的にどのような展開になるのか、あるいはどのような反応が得られるのかはまだわかりません。 私たちは、方法論的に幅広い製品を常温保管できるように大きく転換できることはわかっています。 特に人気のあるホップの味わいを特徴とするビールの場合、常温保管に不向きであるとわかっていながらも、この手法をとることがおそらく短期的には京都醸造をさらに幅広い顧客層に販売するためのより明白で手っ取り早い方法と言えるでしょう。しかし、それが私たちにとって正しいこととは思わず、私たちが視線を向けるべきだと信じている市場にどのように本物の商品を提供できるかについての答えを求めて、利益至上主義という方向ではなく、「ベルギービールへの愛」という私たちのルーツに立ち返ろうとしています。そうすることによって、より多くの人に本当のクラフトビールの魅力を知ってもらえ、取り扱う業者さんの理解も深まることで、冷蔵保管できるスペースの一部を品質の高いビールのために確保してもらえる日が近いうちに来ることを信じて、準備を進めていきたいと思います。