探究心シリーズ ブルワーインタビュー - 颯爽と-

2024年2月から始まった探求心シリーズもいよいよ最終作となりました。シリーズを締めくくるのはリードブルワーの歩(あゆむ)さん。もともとは料理人として働いていた彼ですが、2020年にKBCの仲間になり、特に昨年末にクリスが退社したあとはリードブルワーとして醸造チームの技術向上やチーム形成に尽力しています。
 
誰よりも一番大きな(工場中どこにいても聞こえるほどの)声を出し、誰よりも一番ストイックに様々な課題に取り組み、誰よりも一番お酒を飲む。自らの立ち振る舞いで、醸造チームを導いている彼ならではのこだわりが詰まった、ホッピーゴーゼ「颯爽と(さっそうと)」。ブリュワーインタビューをお楽しみください。
 
 
-自己紹介をお願いします!
 
歩:歩(あゆむ)です。小さいころから自分の手で何かを作ることが好きで、この業界に入るまではレストランで料理人として働いていました。20歳の頃に出会ったベルギービール(ヒューガルデンホワイトやレフブロンド)に感動し、将来、自分の店を持つときには料理とベルギービールのペアリングが叶うお店を!と考えていたところ、小規模でも醸造ができることを知りました。元々物作りが好きだったこともあり「だったら、ビールも自分で造ろう!」と考え、計10年ほどレストランで働きつつ、いずれ醸造の仕事に就くためにきっかけを探していたところ京都醸造に縁ができ働かせてもらえることになり、現在に至ります。
 
 
ー歩さんはリードブリュワーとして、特に今年は活発に他のブリュワリーとのコラボ醸造にも出かけていますよね!ブリュワー同士の交流も多いかと思いますが、ご自身がブルワーとしてビール造りで心掛けていることはありますか?
 
歩:僕はクラフトビールのブリュワーとして、枠に囚われず自由度の高さが生み出す醸造の楽しさを感じています。色々な形で飲む人にパンチを与えるクラフトビールが目立つ今日この頃ですが、僕はビールを飲んだときに感じる”バランスの良さ”や”食事との関係性”も大切にしたいと考えています。
 
 
ーそんな歩さんが今回、ホッピーゴーゼを造ろうと思ったきっかけを教えてください!
 
歩:僕自身は新しい味わいを表現し冒険したいと考える醸造家の一人で、そのときにポイントになるのが副原料。レストラン時代の経験を活かし、魅力的な副原料を使用してもなお、自分が納得するような”バランスの良さ”や”食事との関係性”にこだわったビールを造りたいという気持ちがあり、ホッピーゴーゼを造ることにしました。
 
 
ー今回のスタイル”ゴーゼ”、もともとは大量に汗をかく鉱山労働者の人々が塩分・ミネラル・水分を補うために開発されたという説もあるスタイルですよね。この伝統的なスタイルに「颯爽と」では”ホッピー”という特長を与えていますが、これについてこだわりがあれば教えてもらえますか?
 
歩:今回のレシピでは、小麦を少し多めに使用し、見た目は少し霞がかったペールカラー。発酵時に爽やかな酸味を生成する酵母と少量の岩塩を加えることで適度なコクとまろ味を持たせています。そして、厳選したホップからは白桃のような核果実系のベースになる印象を引き出しました。また、煮沸終了の直前にケトルに加えるレモングラスとコールドサイドで加えるライムリーフからは甘やかな香りを引き締める清涼感と少しの青さをビールに与えることを狙いました。仕上がりとしては優しい桃様の香りに爽やかなボタニカルさを感じ、角の取れた酸味がゴクゴクと喉の渇きを潤すリフレッシングな一杯になればと思いながら造りました。
 
 
ー「颯爽と」を醸造するにあたって、歩さんにとっての「探求心」ポイントを教えてください。
 
歩:副原料として過去にあまり使った経験のないものを取り入れるというのも十分に挑戦ではあったのですが、さらに材料の個体差や状態が想定していたものと違った時に、柔軟な判断をすることに注力しました。
例えば、今回使ったライムリーフは仕込みをする前のテスト時に使用した物と、産地やメーカーの違う物でした。鮮度に大きな差はないように思いましたが、香りに若干の違いがみられました。その想定外の状況を受け、刻み方を変えてみたり、浸出時間を調整するなどし、狙っていた味わいに近づけるのに工夫をしました。思った通りにいかないことや状況が変化することが日常茶飯事なんですが、そんな中でビールの味わいをイメージに近づけていくために、都度仮説を立てて、考えて、調整を加えます。これを最後の最後まで気を抜かずに繰り返していくので、大変なんですが、ビール造りの楽しい醍醐味のひとつだと思います。
 
 
ー歩さんは前職である飲食での経験を活かして、それぞれの商品ページの「相性のいい食事」のアイデアを提供されていますが、ペアリングを考える時のポイントはありますか?
 
歩:そうですね、前職のレストランでやっていた、料理を基準にお酒を選ぶということではなく、今は仕上がったビールを基準に料理を考えるという逆パターンなんですが、やはり過去の経験を基に想像を働かせ、この季節に何を食べてもらいたいか、一口ビールを口に運んだ後にどんな料理が目の前にあったら気持ちが盛り上がるかを考えて選ぶようにしています。さらに、その時の旬の食材を取り入れたお料理があれば、ビールを飲みながらの食事の時間を最大限に彩ることができますからね。そういった想像を楽しみながらやってます。
 
 
ーでは、今回のビール「颯爽と」に合わせるのにおすすめの料理を教えてください!
 
歩:まず飲食店に向けて樽のみでリリースするので、基本的には室内で飲んでもらえるビールという前提で、サッパリとしていて、ガスをやや強めに設定しているので、食欲を増進するような食前酒としてや前菜と一緒に楽しむのにぴったりじゃないかと思います。中でも、ギリシャ料理のようなヨーグルトやハーブ、そしてオリーブオイルが使われた魚介の料理やソースに合わせてもらうと、食事の良いスタートを演出できると想像しました。
 
 
インタビューを終えて:
実はこのビール、当初は探求心シリーズの第一弾として発売する予定で、もうずっと前から醸造が予定されていたのですが、様々な事情でシリーズのフィナーレを飾るものになりました。KBCの皆が、「歩さんがホッピーゴーゼを造る」ことを長い間知っていて、楽しみにしていたので、ようやくの実現にとても嬉しい思いです。
 
同じブルワリー内で働いている私たちでも、歩さんの姿を見かけない日もあるほど、彼は毎日動きを止めることがほぼありません。そんな歩さんを久しぶりに割りと長い時間見たのは、今回副原料として使用したレモングラスを給湯室でザクザクと刻んでいた日でした。料理が得意な彼の手際の良さが感じられ、室内にはレモングラスのいい香りが広がっていて、思わずカメラを向けずにはいられませんでした。
 
 
まだまだ暑さが厳しいこの時期に、やっとこのホッピーゴーゼを皆様の元に届けることができます。タイミングとしてはこれ以上ないでしょう。さぁ、ビールの完成と残りの夏を乗り切る気付けに乾杯しましょう!