探究心シリーズ ブルワーインタビュー - 白い狂気

前作の探求心シリーズが発売されて2か月。各地のイベントで当シリーズのビールを求めて足を運んでくださる方の多さに、みなさまからの期待度の高さをひしひしと感じています。その期待に応えられるような「探求心」に溢れたビールを造り続けていきます。
前作までは飲みよいスタイルが続きましたが、第四弾となる「白い狂気(しろいきょうき)」はしっかりとした飲み口のホワイトスタウト。今回のビールをデザインしたのは、京都醸造唯一の女性ブルワー、Kelleyさんです。
元は2017年からタップルームスタッフとしてKBCの仲間になった彼女が、ブルワーとして動き出して早1年。これから夏本番となる京都でいまホワイトスタウトを造った経緯やKBCにとっても初めてとなるホワイトスタウトについて、今回もインタビュー形式で紹介します。
ー自己紹介をお願いします!
Kelley:こんにちは、Kelley(ケリー)です。フロリダ州タンパで育ち、フロリダ大学で日本語の学士号を取得しました。まだアメリカに住んでいたときにクラフトビールが好きになり、62のタップと500種類以上のボトルビールがあるクラフトビール専門バーで働くことになりました。そこから発酵に興味を持ち、ビールを醸造したいという願望が芽生えましたが、その機会を得るのはずっと後のことです。
2014年にJETプログラムでALTとして来日し、幸運にも京都市に配属されました。JETプログラムで3年間働いた後、京都府内の酒蔵にて6年間、日本酒づくりに携わりました。その途中、2017年にKBCのタップルームでアルバイトを始め、昨年4月にKBCに醸造担当として入社しました。まだまだビール造りについては日々学ぶことがたくさんあります!
 
ー京都醸造のスタウトと言えばこれまでは、「黒潮の如く」「深煎注意」など、見た目は「黒」が一般的でしたが、今回「黒くないスタウト」を作ろうと思ったきっかけはありますか?
Kelley:「スタウト」と聞くと、黒さ・コーヒー・チョコレートなどをイメージしますよね。黒いスタウトを造るときにはローストした麦芽を使用することで味わい深さを生み出しますが、今回はそれには頼りすぎず(そして濃い色を出すことなく)スタウトの特徴である風味を出すことに挑戦したいと思いました。また、京都のコーヒーショップ”KURASU”のコーヒー豆を使用しています。いつも親切なスタッフと美味しいコーヒーで迎え入れてくれる私のお気に入りのコーヒーショップです!
 
ーこれは私が個人的に興味がある点なのですが、ハイアルコールでどちらかというと寒い時期にゆっくり温度変化を楽しみながら飲まれるイメージのあるスタウトを、暑さが厳しくなるこの時期に醸造したのはどうしてですか?
Kelley:スタウトの起源はイギリスで生まれた”ポーター”。見た目は黒でありながら、アルコール度数は様々で、まろやかな味わいやコクが感じやすいスタイルです。その後”ポーター”の飲みごたえとアルコール度数を極めた”スタウト”が生まれ大人気になりました。
ホワイトスタウト「白い狂気」は、スタウトの本来の姿、つまりポーターに近いニュアンスを持っています。スタウト好きな私としては、夏場は暑さで飲むことを敬遠されやすいスタウトも、ホワイトスタウトなら飲みごたえはそのままに、この季節でも楽しんでもらうことができると考えたからです。
飲み口の軽さと大胆な風味のバランスを意識し、アルコール度数は5.5%と抑えながらも、淹れたてコーヒーの香り高さにバニラの溶けるような芳醇さを重ね、次の一口をそそるような設計で仕上げました。
 
ー夏ならではのスタウトに仕上がっているんですね。「白い狂気」の醸造にあたっての「探求心」ポイントを教えてください!
Kelley:まずはKBCでこれまでに造られたことのないものを造りたいと思いました。また、私がクラフトビールで最初に好きになったのはスタウトだったので、それをもう一度見直して、このビールを飲んだ人をいい意味で驚かせたいという気持ちでホワイトスタウトを選び、レシピを設計しました。合わせるコーヒー豆を選ぶためにいくつか試飲し、甘いカカオの香りや甘みに加え、オレンジやブラックベリー、赤ワインの味わいのある「夏暁 (なつあけ)2024 」という豆を選びました。もうひとつ、こだわったのは、焙煎度合い。スタウトの口当たりとローストしたコーヒーやチョコレートの香りを、スタウトにありがちな濃い色なしで出すためにミディアムローストをチョイスしました。
 
ービール名「白い狂気 "The Bright Side of the Moon”」についても少し教えてもらえますか?
Kelley:このビールの名前は、イギリス出身のロックバンド”Pink Floyd”が1973年に発売した有名なアルバム"The Dark Side of the Moon”をもじったものです。クラフトビールファンの中にもこのバンドを知っていて、名前を見ただけで「お!」と思ってくれた人は多いかもしれませんね!
黒いビールの代名詞であるスタウトですが、今回ビールは”黒くない”スタウト。一般的な予想を裏切り、実際には明るい色であることを表現しました。また、このアルバムの邦題が「狂気」だったことから、日本語の名前は「白い狂気」になりました。
もし、気が向いたら"The Dark Side of the Moon”を聞きながら""The Bright Side of the Moon”を飲んでみてください!
 
ー京都醸造では初となる自身がデザインしたビールが、いよいよ日本中のビアバーに向けて発売・発送されますがいまどんな気持ちですか?
Kelley:正直、まだ実感が湧かないけれど、とってもエキサイティング。私のビールが多くの人に届くことにワクワクしているし、できるだけ多くの人に楽しんでもらいたいです。もし私が入ったビアバーで「白い狂気」を飲んでくれている方を見つけたら、このビールについての質問をなんでも答えますよ!
また、これまではスタウトは苦手と避けてきた人やクラフトビールをあまり飲んだことのない人にとっても、このビールが「暑い夏だけどスタウトを注文してみようかな…」と思うきっかけになれば嬉しいです。
ーインタビューを終えて
クラフトビール業界には、情熱的なスタウトのファンがいるようです。熱心な彼らは定期的に集まり日がな一日スタウトだけを楽しむのだとか・・・。私は、真っ黒なパイントがずらりと並ぶその密会のなかに、毛色の違うホワイトスタウトが切り込んでゆき、スタウトファンたちに「ほぉ、このスタウトも悪くない」と言わしめるところを想像すると、こっそりガッツポーズをしたくなるような気持ちになります。
日本酒とビールの世界に単身飛び込み、自分らしく醸造に向き合うKelleyさんの姿と重なるようなホワイトスタウト「白い狂気」。こういう既成観念をぶち壊すようなビールが、ひょんなことから常識を過去のものとし、多種多様な新しい世界へと導く一筋の光になるだろうと感じました。
さて、当シリーズもいよいよ次作が最終作。
乞うご期待ください。