探求心シリーズ ブリュワーインタビュー -東西共鳴(とうざいきょうめい)-

京都醸造の2024年の樽生限定シリーズ「探求心」。京都醸造に所属するブリュワーたちが、世界中のクラフトビールにおける最新のテクニックを試したり、日本に上陸したことのない無名のスタイルに挑戦したりしながら、クラフトマンシップを「探求」するシリーズです。
    
当シリーズの第一弾となるヘイジーペールエール「東西共鳴」を担当したブルワーは、京都醸造でひと際多彩な経歴を持ち醸造経験も長いShogo。普段の彼は、冷蔵庫内で作業する人たちを驚かせるために照明をパチンと切ったり、あらゆる角度から少年のようないたずらをしかけてくるなどチャーミングな一面を見せてくれるのですが、こと醸造のことになれば、まっすぐで真剣。
     
今回はそんな彼が、このビールに秘めた想い、醸造を通して彼が「探求」したこと、そして出来上がったビールの味わいなどについてインタビュー形式で紹介します。
     
     
ー自己紹介をお願いします。
Shogo:
Shogoです。東京出身です。アメリカオレゴン州の放牧農場でカウボーイの隣でフェンスを作り&ネブラスカ州の養豚場で働いたのち2017年に京都醸造に入りました。その後KBCを離れてカリフォルニア州立大学デービス校の醸造プログラムに参加(※デービスの街と暮らしはホントに最高でした!)。その後同州のHeretic Brewing Co入社。永住権の念願かなわずにアメリカから撤収しまして・・・。帰国後は大阪サニタリーでの醸造設備やAQベボリューションで醸造以外のことを勉強させていただいたのちに京都醸造に再び戻ってきました。
     
ー京都醸造に戻ってきて、そろそろ2年が経ちますよね。2024年の樽生シリーズということで、2024年にやりたいことやテーマはありますか?
Shogo:
最近はタップルームの常連さんからのおすすめもあって、MCTオイルにハマっています!
今年やりたいこと…。中国とヨーロッパに旅に行きたいですね。それから、2024年の目標はKBCを卒業する、そして、港町の神戸で自身のブリュワリーをスタートさせることです。神戸港が見渡せる青い空が目いっぱい広がる素敵な場所で2024年内稼働を目指し準備をしています。
     
ーShogoさんはアメリカで色々経験されてきたんですね。今回のコンセプト”休日の正午過ぎたあたりから少し背徳感を感じながらも飲むうまいビール”は、アメリカでの経験から思い付いたのですか?
Shogo:
このビールは、カリフォルニアにいた頃に、ガレージでホームブリューイングしながらテレビでスポーツ観戦していたことを思い出し、そんな穏やかな休日の午後に飲みたいビールをイメージして作りました。また、普段クラフトビールを飲む人にとっても飲み飽きせず、ビールをあまり飲まない人にとっても飲みやすい、いろんな方々が一緒に楽しめるようなビールを目指しました。
     
ーなるほど!ホームブリューイングの経験があるShogoさんならではの発想ですね。今回のビールにおいて、Shogoさんの「探求心」ポイントを教えてください。
Shogo:
様々なシチュエーションにフィットし、杯が進みながらも、多様な人が飲みやすいビールとなるように、ドライでドリンカブルかつフルーティーで優しい口当たりというバランスを意識しました。
酵母は、西海岸と東海岸、それぞれのスタイルで主に使われる2種をブレンドし、共発酵させるという初めての試みを行いました。両方を使ったかいがあって、味わいはクリーンに、香りや見た目は濃厚に仕上がりました。
また、ホップには私がアメリカ滞在時にホームブリューイングでよく使っていたCashmereホップをメインで使いました。洋梨やメロンっぽいフルーティーさが特長的なお気に入りのホップです。ちなみに京都醸造がこのホップを使用するのは初めてなんです。そして、これまでのクラフトビール史では、ホップへの注目がどんどん高まるにつれて、種類の違いだけでなく、醸造技術面でよりよい使い方が探求されてきたように思います。今回のビールでも、これまでとは違ったホップの使い方に挑戦したことで、ホップの奥深さに改めて触れ、一層理解を深められたような気がします。
      
ーShogoさんの「探求心」とともに生まれた「東西共鳴(とうざいきょうめい)」の仕上がりはいかがですか?作り手としてぜひ味わってもらいたい!という、ポイントを教えてください。
Shogo:
オーツ麦や小麦フレーク由来の優しくなめらかな口当たりがある一方で、ペールエールらしいドライでクリーンな飲みよい仕上がりになりました。ダブルドライホップによる洋梨やトロピカル、メロンといったフルーティーな優しくかつパンチのあるホップの特徴的なキャラクターを楽しんでもらえたら嬉しいです。
     
ービール名「東西共鳴(とうざいきょうめい)」の由来や、この名前に至った経緯を教えてもらえますか?
Shogo:
アメリカ東西を代表する2大巨頭といえる酵母がこのビールのポイントでしたので、名前にもその要素を加えました。一方でその主役2人だけでなく、仕込み工程やホップの使い方など細かな新しい取り組みを随所に取り入れた数々の脇役達の姿も。舞台上で華麗な演技力で踊る主役の周りには、偶然を装おいながらも計算づくされたパフォーマンスをする脇役達がいます。いろんな演者が舞台で共鳴している姿から名付けました。グラスという舞台の中で繰り広げられる演出をぜひお楽しみください。
     
ー最後に、「東西共鳴」が出来上がったいま、どのような気持ちですか?
Shogo:
私が敬愛するビールの師匠から「どのビールにも同じように向き合い、愛情を注ぐように」という姿勢を教わりました。そういう意味では、満足する仕上りのビールがまた1つ完成し工場を離れていくことを嬉しく思います。
また、先にも話したように2024年は、自身のブリュワリーがスタートする年になります。このステップに辿り着くまでに、沢山の方に出会い、沢山のサポートいただき、そういった方々のおかげで本当に楽しく貴重な経験を積むことができました。だからこそ、自分のブリュワリーでもそんな空間やそんな人の出会いのきっかけとなる一杯のビールを作れたら、と頭に思い描いています。この記事を読んでいただいた方の頭の片隅にでもこんなこと言ってたやつがいたなと秋ごろに思い出していただけたら嬉しいです。
そして、引き続き今よりもより良いモノづくりができるよう励んでいきます。
そのためにも、穏やかな休日にこのビールを飲みながら、東西海岸と中西部が激突し終盤戦盛り上がるNFLを観戦しながら過ごし、エネルギー補給をしたいと思います!!
     
      
インタビューを終えて:
2024年の新しい樽生シリーズ「探求心」第一弾となるヘイジーペールエール「東西共鳴(とうざいきょうめい)」を担当したブルワー、Shogo。インタビュー中、質問のひとつひとつにしっかり真剣に答えてくれ、生真面目で、芯があり、熱意と責任感に溢れた彼の性格をひしひしと感じました。
     
ビールの名前の由来を伺ったところでは、「主役を支える脇役たちの重要性」にも言及しており、かつて学生時代にアメフトに興じていた彼ならではの視点を感じる瞬間でした。師と仰ぐ方からの言葉「どのビールにも同じように向き合い、愛情を注ぐように」に忠実に誠実に向き合い造った「東西共鳴」は、彼の多彩な経験と人となりがめいっぱいに反映された一杯になったのではと感じています。
      
カリフォルニアでの休日の午後、ビール片手にゆっくりと流れる時間を思い出しながら造ったヘイジーペールエールですので、特に気忙しい日々を過ごす方々に、このビールを飲むことで少しでもゆったりとした平和なカリフォルニアタイムが訪れることを願っています。
      
そして、探求心シリーズ第一弾の「東西共鳴」が、Shogoからバトンを受けて次作を醸造するブリュワーたちのパフォーマンスにも共鳴することでしょう。