醸造責任者クリスからの重要なお知らせ

とても残念なお知らせですが、創業者の一人であり醸造責任者のクリス・ヘインジが、2023年末をもって京都醸造を退職することになりました。

実際に彼が醸造所を後にするのはもう少し先のことですが、現在募集中の新しい醸造責任者に応募しようかと検討されている方には、このことをあらかじめ知っておくことでより入社後のビジョンを持ちやすく、そしてこちらにとってもこのポジションにしっかりフィットした人材に入ってきてもらえるのでは、と考え、半年以上先のことですが、早めに公のことにする決断をしました。

また、いずれ訪れるその日が突然ではなく、事前に広く知られ、それぞれに(業務的なことだけではなく心の)準備ができている形でその日を迎えられる方が、残されたクリスとの時間をこのうえなく有意義に感じ、大切に過ごせるのではないかという思いからもこのタイミングでのお知らせになりました。

言うまでもなく、京都醸造の根幹をなす企業理念とビールにおけるアイデンティティの両方において、クリスがいなければ、今のような会社にはなれてはいなかったでしょう。 これには、言葉にできないほどに彼への感謝の気持ちでいっぱいです。

では、以下はクリスから皆さんへのメッセージです。

——————————————————

京都醸造のコミュニティ、そして国内クラフトビールに携わる方々へ

これまで私たち京都醸造を厚くサポートしてくださっている方々にはご存じのことと思いますが、私は2015年の醸造所立ち上げからの創業メンバーの一人でありながら、長らく醸造責任者の役職に就いてきました。日本で知り合った2人の友人と一からクラフトビールを造る醸造所を立ち上げ、ここまで成長させるというのは冒険の連続でたくさんのやりがいを感じるものでしたが、さまざまな理由により、2023年12月末をもって退職することにしました。

こうした決断のタイミングは、会社やそれを取り巻く環境を客観的に見て、自分自身にとっても想定していませんでした。私たちはこの数年の間、新型コロナウイルスの影響から立ち直り、ビールを造り続けるために信じられないほどに懸命に取り組んできました。その努力の成果は、日々さまざまなところで感じることができます。社内には、共通の目標に向かって切磋琢磨しながら楽しく取り組む、才能と意欲に溢れたスタッフ達がいます。 私たちのビールは創業以来これまでで最も高い品質基準で醸造されており、さらに販売チャンネル・流通ネットワークの拡大により、より多くの方が容易に京都醸造のビールを楽しむことができるようになりました。コロナ禍のピンチをチャンスに転換する力が現在の強固な足場を築き上げ、生き残りを賭けヘトヘトになる戦いに囚われることなく、これからも継続して成長していける準備が整った状態といえるでしょう。

このような革新的な組織の成長を目の当たりにすることは私にとってやりがいのあることでしたが、それは大きな犠牲を伴わずには実現しませんでした。私はこれまで10 年以上の時間、貯蓄やエネルギーを京都醸造の会社としての成功に貢献するために捧げてきました。その中から非常に多くのことを学び、自らを捧げたことには後悔していません。しかし、最近になってこのまま会社へ継続的に全力投球するのに自らの燃料タンク内に十分な量の燃料がなくなってきていて、いよいよ難しくなってきていることに気づきました。そして、自分のような立場にある人は誰しもが認めたがらないことですが、私はついに自分が完全に燃え尽きたことを悟りました。

もう 1 つの理由は、より個人的なもので、この規模の醸造所を運営することに対する期待と現実の違いがあります。私がこの冒険を始めたときの目標は、ビール醸造への情熱を本格的な仕事に変え、それを通じて日本のクラフトビール業界にプラスの影響を与えるということでした。 現在、私の中ではこの目標は達成され、その過程で京都醸造を国内の主要な醸造所の一つとしての地位へ導くことに貢献できたと感じています。私はこうした功績に対しては大きな誇りやプライドを持っていて、引き続きビールに関する研究や製造に多くの時間を費やし、結束の強い小さなコミュニティ内で共有されることになるだろうと思い描いていました。 しかし実際には、私はほとんどの時間をチームマネージメントと、これから数か月も先に予定されている私が当初想定したよりもずっと大きな規模の計画に費やしています。私が自身の力や時間を捧げれば捧げるほど会社とビールを飲むお客さんの両方から評価してもらえるというのはとても嬉しく光栄なことではありますが、それだけが私が醸造所を始めようと思った動機ではありません。このギャップが日に日に広がり続け、自分のやりたいこととやらなければいけないと感じていることの隔たりも大きくなり、結果としてどちらにとってもプラスとは言えない状況です。

こうした幾つかの理由とは関係なく、この私の決断が京都醸造の将来に大きな影響を与えないように、これまで全力で取り組んできました。現在の醸造チームは創業以来最も強力で有能なメンバーに支えられています。チーム内に十分なメンバーが揃ったため、私の役割は指導と計画が主な業務に移行し、醸造業務の90%以上が私の介入なしで運営されている状態です。また、昨年の製造工程やレシピ調整に関しても、彼らが意見を出しあい、それに基づいて滞りなく行われてきました。

また、同様に商品の出荷・配達を行うロジスティックや運営チームにもこうした成長や自立が見られ、製品開発に関連する短期~中期の計画や商品化を含む主要な業務の多くは個々のスタッフによって進められています。そうした現状を見ていると、品質の高いビールを継続的に生産し、顧客のもとに届けるという現在行われている京都醸造の業務が私の退職によって中断されるようなことはないと断言できます。

とはいえ、会社にとって変化は変化ですので、2024年に京都醸造がこれまで通り、新しい目標に向かってスタートを切り、確実に達成するために、私たちは次の醸造責任者を積極的に探し続けます。 顧客の期待に応えるだけでなく、それを超えて喜びと驚きを与えるようなビールを提供し続ける京都醸造をしっかりと引っ張り、優れた能力を備えている醸造責任者にこの席についてもらうと確信しています。

最後になりますが、京都醸造と国内のクラフトビール業界をいつも応援してくださっている皆様に、深く感謝の意を表したいと思います。私たちが醸造を始めた2015年、この業界はまだ黎明期にありました。そんな中、私たちは幸運にも、箕面ビールや志賀高原という業界を引っ張るカリスマ的な存在の方々からの本当に温かいサポート受けながら醸造所をスタートさせることができました。このことは永遠に感謝し続けるでしょう。 また、Y. Market Brewingやうしとらブルワリーのような現代的で素晴らしい醸造所とともに事業をスタートできたのも幸運という他ありません。また、仲間シリーズを通してHeretic Brewing、Upright Brewing、Arizona Wilderness、Burnt Mill Brewery、Knee Deep Brewingなどの海外の醸造所とのコラボレーションをする機会にも恵まれました。この業界で知り合った人々を”友達”と呼べるということは、京都醸造という冒険の中で得た私の最も貴重な財産です。

そして、京都醸造のすべてのお客様へ感謝します。 創業してまだ間もない頃、ポールと私が一緒にタップルームに立っていた時に、ふらっとビールを飲みに来てくださって知り合った方々が今でも常連で来てくれています。私にとって最もやりがいを感じた経験の 1 つは、バーやイベントに出向いた際に出会った方が最初にクラフトビールに興味を持ったのは京都醸造のビールで、今ではクラフトビールなしの生活は考えられない、と時間をかけて私に伝えてくださったことです。そういった方々のおかげで、京都醸造のみならず、業界全体がここまでの「大きな再生」を経験することができました。

ありがとうございました。

クリス・へインジ
醸造責任者 兼 共同創業者
京都醸造株式会社

——————————————————
クリスが京都醸造を去るということは、本人から突然告げられたことではなく、私たち(ポールとベン)はしばらく前からそのことについて考えていることを知っていました。それでも、この発表は私たちにとって、時間をかけてゆっくり気持ちを整理していかないといけないほどの大きな衝撃を与えました。 3 人は知り合って18 年以上の気の知れた友人であり、いつまでもずっとこの3人で経営していく会社になるだろうと純粋に想像し、意気揚々と京都醸造を立ち上げた頃を思い出します。

永遠に続くと思っていたことが、そうではなかったという現実を目の当たりにして、今思うこと。それは、私たちが心から望むのは、友人クリスが幸せに感じられることをして、彼が本当に送りたい人生を送ってもらうことだけです。

今すぐにとはいかないですが、将来に私たちが一緒に達成したすべてのことや、喜びを分かち合った瞬間、楽しかった思い出を一緒に振り返ることになるでしょう。京都醸造は初期に造ったビールに手ごたえを得て、その後大きく軌道に乗るきっかけをつかんだと信じています。それ以来、最初の方法や形式に固執することなく品質と一貫性の向上に力を注いで来ました。 また、創業当時の私たちには想像もできなかったようなスタイルのビールをたくさん造り、コラボレーションを通じて多くの知識や技術を学ぶことができました。その中には、当時日本ではまだあまり知られていない手法を施したものも多くありました。

こういった経験や継続的な取り組みから会社としての能力や技術を蓄えてきたところなのに、なぜクリスがこのタイミングでの退職を決めたのかというと、 私たちが過去数か月、数年にわたり見てきた、才能ある頼もしい醸造チームがクリスの指導の下で成長してきたということが挙げられます。彼らはすでにビール製造のあらゆる側面を一人前に引き受けることができるまでに成長し、実際にこの数年の京都醸造を動かしてきました。クリスが去った後も、彼らがさらなる自己研磨をし、さらに成長してゆく。そうすることで京都醸造を次のレベルに引き上げる推進力になり得るのを確信しているし、それを大きく期待しています。

これをより確実に、正確に進めていくために、京都醸造にさらなるスキルや知識、そしてエネルギーをもたらしてくれる熱い人材を探す段階にいます。

最後に、京都醸造の一翼を担っていたクリスが去っても何も変わらないとは言いませんが、これからも京都醸造は最高のビールを造り続けるし、私たちが成し得ようとしている大きな挑戦はこれからも続きます。この終わることのない成長と挑戦は新たな道に踏み出すクリスにも同じようなことが言えると思います。そして、たとえ会社から彼がいなくなっても、きっと離れたところから京都醸造の成長を喜んでくれるでしょうし、私たちも彼のこれから行く先々での出来事や挑戦に大きな喜びを感じることでしょう。

ありがとう、クリス。