技能とエシカルを体現する存在「グラウラー」
私たちが醸造所を始めたときは、まだ”グラウラー(ビールの通い容器)”のことを知る人はそんなに多くなかったし、手に入れる方法もすごく限られていたように思います。街で取り扱うところも両手で数えるくらいで、大々的に取り扱う場所も一つか二つあるだけでした。
2015年に営業を始めた京都醸造のタップルームですが、当時はボトルや缶の販売はまだ無く、フレッシュなビールをお家で楽しむ選択肢はありませんでした。すでに海外では当然のように市民権を得ていたグラウラーが京都醸造にもあれば、この上なく魅力的な提案になるだろうと当時から感じていたのに、なぜ導入が2018年になってしまったのか今では不思議でしかたありません。
創業時から大切にしてきた4つの基本的価値観の中で、技能(Craftsmanship)とエシカル(Ethical)の考えを見事に体現したようなグラウラー。ガラス製のボトルや缶入りのビールは、どうしたって消費とともに廃棄物を生んでしまいます。一方で、繰り返し使えるグラウラーは、ゴミをほとんど生むことなくお家でフレッシュなビールを楽しめる環境の観点から理想的な提供方法と言えるでしょう。
グラウラーサービスを提供する多くの場所では、タップ(注ぎ口)から直接容器へビールを充填するので、ビール内のガスが逃げやすく、持ち帰って飲む際にお店で飲むビールに比べやや気が抜けた味わいに感じることがあります。また、空気に触れる機会が増え、結果として味わいの劣化を促してしまったり、長持ちしにくい側面があります。この充填方法で詰められたグラウラーは持ち帰ってから1,2日開封せずにいた場合、たくさんの愛と涙、汗と共に造られたビールが残念なことになっていることもあるでしょう。しかし、”技能”を最優先事項のひとつと考える私たちが、これを良しとする訳がありません。
私たちの基本的価値観を揺るがせずにどのようにビールの味わいを損ねてしまうグラウラーの課題を乗り越えていくかと考えの末に決断したのは、特殊なグラウラー充填機の導入でした。2018年のグラウラーサービス開始に向けて採用したのは、ぺガスという充填機で、容器内をCO2ガスで満たしてから、空気に触れる機会を極限までに少なくしながら充填できる優れもの。これで、家でも樽生ビールの美味しさを気兼ねなく楽しめるという夢のような機能を持ったものです。
グラウラーサービス開始後、まもなくして定番商品に限定したボトルビールの販売も始めましたが、限定ビールを持ち帰ることができるグラウラーも平行して提供してきました。さらにコロナによる影響で缶製品のラインナップ拡充に舵を切り、今ではビールを持ち帰ることが当然のこととなりましたが、それでもグラウラーが持つ魅力は廃れることはありません。グラウラーは缶と比べて特別経済的というわけでもなく、カラフルなラベルで装飾されているわけでもなく、ガラス製なのでずっしり重く、一度開封したら味が悪くなる前に1Lも飲まないといけないことを考えると、350ml入り缶の便利さ、手軽さを痛感することでしょう。
缶製品の良いところを挙げ始めると、せっかくのグラウラーが見劣りするように感じさせてしまいますが、環境保護の観点からはこれほど私たちの考えを体現した理想的なビール提供方法はありません。
この度、原材料や資材価格の高騰を受け、樽生ビールだけでなく缶製品の価格改定をすることになり、タップルームでのビールの価格も同様に改定します。しかし、この機会にグラウラーの持つ意味や価値を再認識し、他の商品とは逆に価格を下げることにしました。それにより、これまで以上に多くの方々にこの持ち帰り方法を選んでもらえる日が来たら嬉しく思います。私たちにとっては少々経済的に痛手にはなりますが、グラウラーにたっぷり入ったビールを意気揚々と持ち帰る人たちを見る喜びは、それには代えがたいものがあります。