大切な友人の思い出 - 引き合う力

ちょうど1年前、京都醸造は大切な友人を亡くしました。

Beer Cafe Primordialはお店が開業した頃より京都醸造のビールを取り扱ってくれていた浦和にあるお店でした。初めて訪れた時のことを今でも鮮明に憶えています。埼玉で行われるクラフトビールのイベント、けやきひろばビール祭り(以下”けやき”)に参加した際に、ふらっとPrimordialを訪れ、ビールに対する想いや丁寧に扱う様子、気の利いた食事のメニューから小さくも行き届いた店内の落ち着いた雰囲気まで、一瞬にして感心してしまったのを覚えています。さらに、礼儀正しくて本当に気持ちの良い性格の持ち主である店主の藤井健太さんを頼ってお店を訪れる常連のお客さんがたくさんいて、南浦和の中心部からすこし離れた場所だったけど、素晴らしいコミュニティーが藤井さんを囲んで存在しているのがすぐ分かりました。

それ以前から京都醸造のビールは頻繁に使ってくれていましたが、藤井さんと実際に初めて話した時に、ぜひ京都醸造のビールを常設にしましょう!と快く言ってくれました。その後は埼玉では数少ない京都醸造のビールが飲めるお店としてPrimordialは大切なお客さまでしたが、さらに関係を深くするきっかけになったのは、けやきに一緒に出店したことです。ある日、藤井さんの方から、京都醸造と一緒にブースを分けて、ビールに合うお料理の提供をしましょうか?と声をかけてくれたのを憶えています。私は彼の作る料理の素晴らしさを知っていましたので、ぜひ!と返事をしたことから、その秋のけやきでの共同出店が叶いました。

しかし、その秋のけやき出店は結果だけ見れば、けっして大成功とは言えないものでした。事前周知が甘かったり、状況が思っていたふうではなく、フードの売り上げは正直思ったほどのものにはなりませんでした。そんな状況の中、たくさんの下準備に時間と労力をかけてきた藤井さんの気持ちは複雑なものだろうと、気にかけていたのですが、いざイベントが終わり、振り返りを話していると、彼は「今回の出店で次に向けて何を準備して臨めばいいか、勉強になりました!また一緒にやりましょう!」という前向きな言葉で、次の出店にむけてやる気をメラメラと燃やしている様子でした。

そして、彼のその言葉は正しかった。次のけやきの共同出店では、新たな趣向を加えた新メニューで参戦し、前年を大きく上回る結果を残したのです。その後もとどまることをしらず、出店を重ねるごとに大きな成功に結び付いていき、いよいよ2020年の春のけやきでは、私たちのビールの売り上げを上回るのではという話までしていました。

ところが、残念なことに成功を収めた2019年の秋が最後のけやきになってしまいました。秋のけやきの数か月前、藤井さんは食道がんであることを宣告されたのです。イベント終了後に、私たちにがんを患っていること、どの程度進行しているかを教えてくれました。その時でも藤井さんは前向きで、「次の春のイベントまでに頑張って治すので、また一緒にやりましょう」と言ってくれました。そんな熱い約束があったにもかかわらず、コロナは冷酷にも日本で広がり始め、春のけやきを中止に追い込んでしまいました。ではその次の秋を、と意気込む私たちとは裏腹に、とうとう秋の回までも中止に。

その年の8月13日、本人の懸命な努力の甲斐なく、私たちの親友・藤井健太さんは闘病の末、その短い生涯を閉じられました。直前までがんに蝕まれる体を押して、Primordialの店頭に立って訪れるお客さんをもてなし、一緒に過ごされていました。それでも次第に体力は限界を迎え、お店に立つことも難しくなりましたが、お店を閉じるわけにはいかないという声が常連客グループから起こり、藤井さんが不在の時でもグループ内でうまく交代しながら店の灯りを絶やさなかったそうです。そして、藤井さん亡き後、その常連のお客さんの中の一人がAquwa Brewworksという名前で元Primordialの店舗とそのコミュニティーを引き継がれ、営業を続けていらっしゃいます。また生前、Primordial で京都醸造のビールをたくさん繋ぐタップテイクオーバーイベントをやりましょう!と藤井さんと話していたこともあり、最後のお別れの日には常連のお客さんたちと一緒にPrimordialでイベントを開催しました。その日は驚くほどたくさんの人が駆け付け、お店とお店の周りが彼を偲ぶ人で埋まり、ビールがなくなっても誰も立ち去ろうとしないところを見て、どれだけ藤井さんという人が多くの人に愛されていたかがわかりました。

もう今となっては彼に会うことはできないけども、出会い、話し、一緒に過ごした時間はこれまでも、そしてこれからも色あせることなく京都醸造の中で生き続けるだろう。彼ほど自分の進みたい方向ややりたいことがはっきりと見えていた人はいないと思う。だからこそ、あのPrimordialという場所が商業的にだけでなく、たくさんの人が出会い集う場所として成り立ち、きらきらと輝いていたのでしょう。

振り返れば振り返るほど、彼の笑顔が瞼の裏によみがえり、前向きな言葉を発する彼の声が聞こえてきそうな気がします。1周忌の今日は親愛なる藤井さんのことを再び想い、ビールの入ったグラスで乾杯したいと思います。ありがとう!