2020年への思い

先週よりお話してきたのは今年2020年の振り返りと来る2021年に向けての取り組みについてでした。この後もあと数回に渡りお話は続くのですが、今回は少し本線から外れ、KBC創業者の3人それぞれが今年を振り返りましたのでご紹介します。

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<アルファベット順>

Ben

2020年は非常にタフな1年でありながら、本当に多くの新しいことを学んだ1年でもありました。それはクラフトビール市場やこの業界のこと、仲間のことや自分たちのことなどです。

ではまず、2020年に私が感じたことにはこんなことがありました。

①ラッキーとはこのこと
運と言うものの存在を強く信じざるを得ない経験でした。私たちの昨年の売り上げの実に約97%は樽商品で構成されていました。が、今年の3月、4月に樽商品の売り上げは絶望的に落ち込み、悲惨な状況でした。そんな中、偶然にもかねてから準備を進めていた個人向けショッピングサイトの運営も春頃の開始を視野に入れていました。もしこの計画が無かったらと想像すると本当にぞっとします。小さくともあらゆる部分に目を向けておくことはいつか強みになる、と同時に一つの市場に依存・集中しすぎるのはあまりに危険な戦略であるということを思い知りました。

②多くの人々は大変な時こそローカルを見捨てない
醸造所併設のタップルームはコロナ対策としてサービスを縮小し、持ち帰りのみで営業を続けてきましたが、驚いたことにそれ以前とさほど売り上げは変わらず、地元のお客様にしっかり支えられていたことを改めて実感しました。同じような話を全国様々な地域にあるビアバーや醸造所からも聞いています。

③テクノロジー万歳!
世界的なパンデミックが起こり、人との直接的な交流が容易でなくなった時でも、テクノロジーのおかげで人が(グループでも)繋がり合えたり、遠隔で醸造所のツアーを行えたりできたのは素晴らしいことでした。オンラインでテイスティングセッションや飲み会を行ったりすることでも、これまでにない形で社会生活を維持できるというのは10年前にはあまり考えられなかったのではないでしょうか。

④クラフトビール業界は多くの素晴らしい人で出来ている
コロナ禍でビール市場は他の多くの市場と同様に大きな影響を受けました。こういう状況下では横のつながりは蔑ろにされ、得られるかもしれない小さな売り上げのための競い合いが起こりがちです。それは生き残るための当然の姿勢と言われれば否定はしませんが、クラフトビール業界はそうではないのです。苦境に立たされていた私たちの元へ、同じ業界で交友のある伊勢角屋麦酒、箕面ビールやYggdrasilはこんな時だからこそ一緒にビールセットを作って販売しようと声をかけてきてくれました。後に醸造所が集まってのZoom飲み会でもその時の話で盛り上がったりと、横のつながりの強さを再認識する機会になりました。

⑤クラフトビールファンは最高
今年は特にショッピングサイトの開設もあり、本当に多くの人に支えられていると実感しました。彼らが私たちのビールを購入するのは、その味を気に入ってもらえているからと思いますが、過去にイベントなどで知り合った方やお世話になった方達が自分達用だけでなく贈答用として注文をしてくれているのを見かけます。きっと私たちが大変な状況にあることを思って、手を差し伸べるようにビールを買ってくれているのだと思います。

これらの気づき以外に学んだことがありました。それは、過酷な状況を受ける中でも、同じゴールを見据えているチームは素晴らしい力を発揮できるということです。夏の間、これまで以上に多忙を極め、働く時間は長くなりがちになりながらも、KBCのチームはより強い結束力を持ち乗りきることができました。この会社が無事にこの一年を終えることが出来るようにという想いが個々の頭の片隅にあったのではないでしょうか。

出荷や営業部門から見た一年としては、個人向けのショッピングサイトが売り上げの大きな割合を占め始めたことにより、かつての10Lや20Lの樽を送り出すシンプルな出荷からボトルビール6本を箱に詰めて商品準備をし出荷するようになりそれ以前と比べものにならない程に時間と労力が必要になりました。また、更なる顧客志向を目指し、大阪への自社配達や配達日の拡充にも取り組みながら、新たな販路を開拓するため百貨店・酒屋・スーパーマーケットへの販売も積極的に進めました。

コロナにより悲惨な状況は結果的に私たちを奮い立たせ、これまで以上に視野を広げる機会を与えました。KBCの販路拡大はまだ始まったところですが、先日お知らせしたように今後より多くの方々にKBCのビールへアクセスし易くしていくゾ!と思うとワクワクが止まりません。2021年は2020年と同じようにならないように願うと同時に、最高の一年になるように祈っています。

Chris

2020年は試練の1年になりました。世界規模で多くの人々に影響を与え続けるコロナの影響で、多くの企業と同様にKBCも先行き不透明な状況に陥りました。この見えない敵を相手に何を備えるべきかもハッキリしない時もありましたし、では準備するといっても方法はごく限られていました。それはまるで、竜巻に飲み込まれ、中の状況はどんどんと変化し、もがいてはみるもののどこへ向かっているのかもわからないような気持ち、とにかくキツいの一言に尽きる状況とでもいいましょうか。

そんな中、ビール醸造の手は休めることはせず、多くの醸造を日々行い、いくつかのコラボレーションや、これまでで最も面白みの詰まったビールもたくさん出来ました。二つのコラボ、カナダのGodspeed Brewingとの初めて野生酵母ブレタノマイセスを使った「親友との絆」、そして米Upright Brewingとの発展性のあるセゾン「一汁多彩」では醸造を通して多くの学びと楽しさを得られました。まだコロナが今ほど広がる前に台湾の友だちTaihu Brewingと一緒にビールを造りましたが、その際にベンとポールと3人で台湾を訪れて刺激をたくさん受けたのは今年一番の思い出です。BETと共に作ったドイツ古典ビールの再現「時空を超えて」は普段あまり造らないタイプのビールでしたが、とてもいい出来で私のお気に入りのひとつです。また、KBCらしさという枠を飛び越えて初めてのラガービールにも取り組んだ「新天地」でしたが、これがまた上手く出来たので、数か月後に第二弾を造ったほどです。そしてお馴染みのベルジャンIPAの毬シリーズや新しく仲間入りし活躍し始めた醸造クルーの意見を取り入れて造ったフルーツサワー「南国の日差し」も強く印象に残るビールになりました。

今年一番の変化としてはやはり「ボトルビールの製造」があげられます。これまでは定番商品の3種のみをタップルームで販売するという程度だったのですが、コロナ禍の煽りを受け状況は一変し、限定醸造から季節限定まですべてのビールを瓶詰めするようになりました。その流れで、製造量の予測や商品の準備などの発送業務から在庫管理に至るまで組織内のあらゆるところまで変化が及びました。しかしKBCが持っているボトリング設備は私たちがまだ小さな生産量だった2015年頃に購入したもので、この変化に耐えるにはあまりにも頼りないものでした。同時に充填できるのが2本ずつで、これを使って膨大な量のボトルビールを詰めるのには途方に暮れるような時間と労力が必要でしたが、それに耐え抜いた醸造チームは本当に誇らしく思います。

感染症拡大は醸造スケジュールにも大きな影響を与えましたが(醸造回数が100回を下回ったのは2017年以来)、ひとつ前向きなことをあげるとすれば、この機会に創業以来初めて私たちが普段から造る商品について真剣に向き合うことが出来たこと。向き合うといっても決して容易な事ではなく、物理的にも精神的にもたくさんの精力を傾けて取り組んだおかげで、原点でもある「私たちがどんなビールを造りたいのか」という問い、更には「私たちKBCとは」という根本的な問いにまで深く掘り下げ、再確認することが出来ました。その結果として、これまで造ってきたいくつかの製品とは別れを告げ、その反面、存在意義をはっきりと明確にできた選りすぐりの製品を世に提供していく体制が整いました。そうすることにより、私たちも自信をもって商品を造り続けることが出来るし、それを手にするお客様も迷わず好きなビールを楽しむことができると信じています。京都醸造の挑戦は続きます。引き続き私たちのビールを楽しみにしていてください!

Paul

ビジネス面では、これまでで最もKBCの経営者が3人であったことに強みを感じた一年でした。最近まで、3人の共同経営者は社内で起こっているあらゆる事象を共有し、認識しているものだと一般的に考えられて(時によってはそれを期待されて)きました。今年までは私たちも無意識のうちにそういった前提とされる経営方法で活動し、疑うことなく続けてきました。それは、何かひとつの決断をする場合でも1人が代表で判断するのではなく、2人ないし3人で一緒になって行うといったものです。しかし、 そのようなビジネスの運営方法では判断できる中枢が限られているためいざと言う時に困難が生じたり、会社が成長し続けるために時間などの貴重なリソースを効率的に投入することができません。そこで、少々不安が伴う方法になるとは思いますが、経営者は特定の領域を手放し、信頼する他の誰かがそれを成し遂げられるように進めていくことが大事だと考えられます。

これまで創業者3人は、会社の運営のため、定期的に長い時間をかけて私たちが成し遂げるべきことや進みたい方向性、ゴールに近づくための方法などについて話し合ってきました。時にはすぐに答えが出ないような難しい話をしながら、私たちはプランをまとめていくのですが、そのそれぞれのプラン内での役割を実行するところまで3人でともに進めていくことを大事だと思ってきました。ここに先ほど述べたビジネスの運営方法について思うところがあったのです。あらゆる問題と向かい合う時に経営者がすぐに登場しないことの大きな理由のひとつとして、やはりチーム内の一部のメンバーに学びやステップアップの機会を与えられるということもあるでしょう。

今年2020年は、感染症対策でチームメンバー数人が在宅勤務し、社内ではデスクが複数の部屋に分散して業務を行っていました。こうした物理的な距離間が意図せずに自立することを促し、自身で出来ることを積極的に広げ、掘り下げていくような雰囲気を作り上げました。 確かに、チーム一丸となって取り組んでいた頃と比べ、人々がより多くの責任を負っているように感じましたが、実際にアイデアの提案はより積極的になり、創業者が最初に思いついたものよりも優れた提案や解決策も飛び出すことに繋がりました。私は厳しい状況の後に業績の回復が出来たのは、このことも大きく起因していると感じています。

ITの面では、新たな流通チャンネルや作業効率の改善を急ぐためITへのインプットを倍増しました。 バー、レストラン、ホテルなど既存の顧客層へのサービスだけでなく、新たな販売先である卸業者やスーパーマーケット、百貨店の顧客にも対応できるように、業者向けオンラインショップを刷新しました。 また、一般客への直接販売を可能にするためのオンラインショップを作成し、数か月後には更に利便性を高めるためボトル1本からアラカルト選択ができるようにカスタマイズしました。 オンラインショップはうまく軌道に乗りましたが、引き続きさまざまな追加機能を付与するために投資を継続していきます。現在はボトルと缶のクラブ機能を追加するために取り組んでいるところです。こちらについてはまたお知らせします。

これまで電話やメールで注文をしてくるお客様に、ご自身でウェブサイトを通して注文してもらうようにお願いしてきました。電話やFAXでの注文に慣れた業界ではこの方針はかなり異質で冷たいと思われる節があり、中にはそれだったら私たちと取引しませんと言われたこともありました。 私たちのやり方はすべての人にあった方法ではないことはもちろん承知していますが、こうしたポリシーを遵守することで、多くのお客様には非常にシンプルかつ明確で敷居がひくく、好きな時に24時間年中無休で注文を行うことができるというので喜ばれています。 ミスがなく、冷静で、可能な限り迅速にお客様の手にビールが届けられるということを理想に掲げ、または常に要求されているとし、これからも取り組んでいきます。

最後は財務について。
これまで5年間で借りたお金と同じくらいの額を急遽5か月で借り入れなければならない事態になり非常に冷静にならざるを得ません。 その一部は設備への投資(ITプロジェクト、そしてもちろん新しい缶詰ライン)に組み込まれていますが、他の大部分はコロナ禍を乗り越え、従業員を誰も手放さないという約束を果たすことでした。 今回の借り入れによる資本増強の大きな副作用は、創設者の更なる気合のカンフル剤になることでしょう(刺激が強すぎて、飛んで行ってしまいそうですが)。

今年あったさまざまな要因は積み重なって、結果的に私たちがやりたいことをさらに推し進める力を倍増させました。会社にとって何が良いかを常に考えることも必要ですが、外の状況がふっと私たちの背中を押した一年でもあったのです。 これがこの会社にとって何を意味するのか、そして人々が私たちに対してどのように感じるのかは分かりませんが、何より来年も私にとって最もエキサイティングな1年になることでしょう。