限定醸造をシリーズ化する理由とは - Part6
去年の暮れから立て続けにお伝えしてきたことの中では、京都醸造がビール作る目的に再度向き合い、今の私たちが考える答えを出したことやそれに関連した2021年に成し遂げたいことまで言及しました。
その一つに醸造所の主力商品である3つの定番商品の見直しも含まれています。今日はこれらの商品の他、既存のラインナップに対してもそれらの存在意義を考え直し、新たなシリーズ創設を決断したことについてお伝えしたいと思います。
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限定醸造をシリーズ化する理由とは
創業当時に掲げたひとつのスローガン、「まずはビール」。これは巷に溢れる「とりあえずビール」というフレーズへの密かなアンチテーゼであり、私たちの大事な価値観を表すものだ。他の多くの国でも見られるが、日本におけるビールというものは「とりあえず・・」という言葉に象徴されるように、日常的でありながらさして重要でない一飲み物という見方が一般的といえる。ビールはあくまでもビールであって、軽い味わいで、喉ごしよく、余計な能書は不要、ただパッと出てきてグッと飲んでスッと次へいければそれでいい、という感じ。これは極端に装飾したわけでもなく極めて現実に近い感覚ではないか。しかし、私たちはこう考える。ビールは確かにその飲みやすさから広く愛される飲み物だけど、シンプルなものから複雑なテイストのビールまで存在し、お酒の中でも最も多種多様な飲み物と言えるだろう。あらゆるタイプの食事にもピタッと相性の良い種類が存在するのもビールならでは。
京都醸造はこうしてビールが世の中で「とりあえず」の枠を飛び越えるために働きかけようという想いを込めて「まずはビール」という言葉を掲げると同時に、私たちの活動における優先順位のトップに必ず「ビール」があるということを誓ったのである。他を優先するあまりビールの品質が低下するという事態を招かないために、この言葉は京都醸造が行動を起こす際の重要な指標としてこれまで機能してきた。なので、販売規模の拡大や利便性の追求などを理由に品質が低下したとしたら、私たちは完全にこの言葉に背いたことになるだろう。
これはビールにおいてだけ言えること、とは言えない。例えば懐石料理店へ食事に行ったとしよう。出てくる料理の品質は良いが、食べる人へはあまり配慮されていないお店でははたして楽しく食事ができるでしょうか。配慮が行き届いた空間で、厳選された食器に盛られて食べ物が運ばれる。中でも評価の高い人気のお店は心のこもったサービスでゆっくり食事を楽しめるように総合的な演出と共に食事を提供するはずだ。目の前に料理が置かれた時に、それがどのように調理された何なのか、そして風味を組み合わせてどのような風味を1つの料理で表現されているのかという説明が提供される。
なぜか?
もし料理が美味しければ、そんな説明なしで自分自身で味わえれば事足りるのではないか。味はもちろん大事だが、それをとりまく情報と相応しい見せ方が同時にともなえば味わう人の理解を一層深め、作り手の想いが伝わった時には大きな喜びにまで発展する。こうした理由から、シンプルに「肉」や「魚」とただメニューに書いているお店は見かけないだろう。私たちも同じように、ラガーやIPA、スタウトというスタイル名をそれぞれのビールの名前にすることなく、ビールが作られた背景を連想させるネーミングを付けてきた。当初はスタイル名すらも伏せて、そのビールの世界観を伝えようとしていたくらいだ。スタイル名を知らせるというのは、たいていの場合どんなビールか飲む前にわかってもらえるという利点はあるが、私たちはこの方法を選ばず、スタイルすら連想させないやや突飛なネーミングをビールに付けた。なぜなら、京都醸造のビールを飲む人に私たちの想いや在り方の一片を伝えたかったからだ。それを、「ラガー」や「エール」といったシンプルで期待通りの先入観だけを呼び起こすジャンル名を使い、私たちのビールを扱ってしまうと、その行く末は「とりあえず・・」の枠に小さく収まってしまうビールになるのではないかとすら考えた。枠という名のジャンルや人々の想像を越えるビールを作るというところにこの醸造所は端を発しているし、そこで造られるビールのネーミングには背景や想いを語るだけでなく、人々の興味をくすぐるようなものを付けてきた。飲む人がバーの店員さんに「何でこんな名前なんですか?」と聞かずにはいられないような突飛なものもあったが、瓶のラベルやウェブサイトを見れば、その先に広がる世界へいざなうことができ、それに触れれば飲もうとしている目の前のビールは既にただのビールではなくなっている。添加されたのは特殊なスパイスではなく、言うまでもなく私たちの想いの一片が伝わるという理解だ。
しかし、私たちのビールの中でのつながりというのは何か?
なぜ、定番商品としてベルギーの伝統的なスタイル”セゾン”やベルギー酵母を使ったIPAやスタウトを作るのか、については前の投稿で伝えた。簡単に言うと、私たち自身が飲みたいビールで年中飲み通しても飽きることのないものという基準でその3つは生まれた。
ではその他のビールはどうか。アメリカのIPAでそれぞれの季節観を表現する「気まぐれシリーズ」や他の醸造家とともにまだ見ぬビールへの追求や繋がりを元にコラボレーションを行う「仲間シリーズ」に取り組んできた。それ以外は限定や特別醸造といった大まかな括りに分類されるような商品を月に2~4種類のペースで作ってきた。今回私たちはこのどこにも属さない大きなカテゴリを見直すことになった。春と秋に作ってきた「毬子」と夏と冬に作ってきた「毬男」はそれぞれベルジャン酵母を使ったIPAというつながりで関連性があるにもかかわらず「限定」という箱の中で一緒に押し込まれてきたがなぜか?同じ限定のサワービールや9%のスタウト、ドイツスタイルのビールとのつながりは?京都醸造は好きな物をただただ作り続けてるだけなんじゃないのか?どうしてこうなった?
私たちはあくまでも一時的な位置付けと呼ばれてもしようがない「限定」や「特別醸造」を今年大きく見直し、ビールに込められたメッセージや想いを明確に伝えられるようにシリーズを創設することにした。これにより、シリーズごとに私たちがその限定ビールを作ることになった目的も整理され、手にするお客様の理解へとつながると信じている。気まぐれ、仲間の他に新しい5つのシリーズを次の投稿で詳しくお伝えしていきます。
ご拝読ありがとうございました。つづきます!