好きな時に好きな場所で - Part5

連日のポストに皆さんついてきていますか?先日、定番商品の刷新についてお話しました。また別に目指している大きな到達点があります。それは、ボトルから缶への大変身。今日はこれについて詳しくお話をしたいと思います。

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好きな時に好きな場所で

創業して間もない頃から、醸造所の片隅に小さな瓶詰用の装置が置かれていた。樽入ビールを主力製品として製造する間、それはまるで埃をかぶって気配を消しているようだった。覆いを外されゆっくりと動かされ始めたのはつい2年ほど前のこと、それからというものこの装置の最大限に近い状態で稼働し続けている。特に2020年は最も働いた1年だっただろう。もちろんこのちっぽけな装置で今の製造量に追い付くにはいっぱいいっぱいで、より製造性能の良いしっかりとした設備が必要なのは火を見るよりも明らかだったが、このままボトル製造を続けるのか、缶への移行を進めるのかをなかなか決断できずにいた。缶というのはボトルと比べて容器としてのメリットが多くあり、それを知れば知る程移行する気持ちが固まっていった。しかし、懸念されることもあった。

”そもそもボトルに入ったビールの方が美味しくないの?”

”飲食店に缶入りビールを買ってもらえるのか?”

”缶入りビールは金属の味がするんじゃないのか?”

”安っぽくならないかな?”

どんどん缶入りビールへの移行が進む海外のクラフトビール市場を見たり、自分たちでも独自の調査をしてみた結果、やはり缶の軽量さゆえに輸送の負担が軽減し、Co2排出量においてもボトルビールよりぐんと環境に優しいし、品質の維持においても缶に軍配が上がることが判った。昔から瓶ビールを重宝する国内の風潮とは別に、現代のクラフトビールムーブメントのメッカ、アメリカでは缶の良さがどんどんと見直され、ボトルからの移行がすごい勢いで進んでいる。3年前のアメリカ醸造協会の発表によると、7年前のクラフトビール製造において缶入りビールは全体の2~3%で瓶入りビールの製造量の15%以下ほどの規模だったが、2016年には瓶入りの約50%ほどにまで缶入りビールはシェアを拡げたそうな。これはクラフトビール業界だけの話で、バドワイザーやミラーのような大手は含まれてないし、クラフトの波に乗ろうとする大手の子会社も含まれていない。ボトルから缶への移行を決めた醸造所はなぜその決断に踏み切ったのか。また私たちもなぜ持っている設備を変えてまで、移行しようとしているのか。

缶の良さをあげればきりがない。
割れない。軽い。積み重ねやすい。運びやすい。また、先日話した私たちが重要視するAccessにも通ずるが、全国に流通するには理想的な形状である。在庫するにもかさばらない。お店からお家まで、時にはビーチまで、河辺まで、山まで、友達のお家までとその軽さゆえにどこへでも気軽に持ち運べるのは何にもかえがたい利点だ。輸送コストも軽減できる。金銭的にお得に運んでもらえるかもしれないし、また環境への負荷もボトルに比べるとぐんと軽い。想像してみてください。重量の大きい人がたくさん乗った車で坂道を登ろうとすれば、アクセルを余計に踏むし、その分ガソリンもたくさん使う。排気ガスもその分増えるわけだ。

その次に気になるのは品質のこと。やっぱりボトルに入ったビールの方が美味しいんじゃないの?答えはノーだ。多くの人は缶入りビールは金属の味がすると思っている。これに関して缶に直接口を付けて飲む人もいるわけだから、完全に間違いという訳にはいかないけども、理屈を言わせてもらうとビールが缶に直接触れないように内側にはコーティングが施してある。もしビールをグラスに注いで飲めば、この金属の味はほぼ確実にしないはずだ。さらに、缶の遮光性もその品質維持において大事な利点の一つ。紫外線というのはビールにとって大敵で、紫外線に当てられたビールは異臭を発生させる。私たちを含む多くの醸造所が茶色のボトルを採用しているのもそのためであるが、それでも完全に遮光することはできない。缶はその上に密閉性に優れているので、酸化の原因になる酸素の侵入を防ぎ、ビールに入っている二酸化炭素も逃さない造りになっている。

缶の良さを連綿と語り続けてきましたが、もちろんボトルにはボトルの良さがあって、暑い日にキーンと冷えたボトルからグラスに注がれる冷たいビールなんていうのは喉がゴクリと音を立てるほど魅力的に見えないし、ボトル内での二次発酵を施された特別なビールなんていうものはもちろんボトルでないとキマらない。このことから、今後私たちが世に送り出すビールの中で、ボトルでないといけないと決めたビールは引き続きボトルで出すことにすることにした。(こうした遊び部分はけっして忘れたくないもんね!)それ以外の定番から季節限定、その他の限定シリーズの商品に及ぶまで来年からボトルではなくすべて缶でリリースする方針だ。缶に対する固定概念を変えていくのは並大抵のことではないが、市場のスタンダードに一石を投じたい。そして、一度手にした人ならわかってくれるはず。便利だし、エコだし、なにより美味しいから。そして”まずはビール”。中身は変わらず本気で造った京都醸造のビールだから。

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今回は以上です。
読んで頂きましてありがとうございます。
次は京都醸造にとっての京都そして人々、”この街への想い”についてお話します。