京都醸造をより身近に - Part4

昨日は創業以来変わらず作り続けてきた定番商品を見直したことについて少し熱をあげながらお話をしました。今日は昨年掲げたもうひとつの大きな目標「アクセス」についてです。

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京都醸造をより身近に

私たちが醸造を立ち上げることになった大きな理由のひとつに、日本のクラフトビールにプラスに働く製品を作って、この業界を盛り上げたいということがあった。当初はまずクラフトビールを取り扱うバーに販路を定め、その後あらゆるジャンルの飲食店へと展開し、ゆくゆくは多くの人の生活圏にあるスーパーマーケットやコンビニエンスストアへと拡げ、、、そうすると次は海外へ輸出も視野に入るのか、なんていう漠然としたイメージを持っていた。しかし、無濾過・非加熱を売りにするクラフトビールには取り扱いの難しさという現実的な障壁があり、その鮮度が命ゆえに冷却の設備や取り扱い方法を理解しているお店への販売から始めた。そうしたお店は徐々に増え、需要に追いつくためにいつしか商品の製造をフル回転で行うようになっていた。拡大する販路に跳んで喜びたい反面、どのあたりまで拡大するのがよいのかという慎重になる局面がこれまで何度となくあった。販路を拡げれば、京都だけでなく全国のクラフトビールファンに私たちのビールを試してもらえるし、そもそものこの業界を盛り上げたいという目標に従順な流れだと思うが、そうなると一度私たちの手を離れたビールがどこでどんな状態で提供されているかまったく把握できなくなるという恐れがあった。そういう観点からはビールを作った場所でそのまま販売するブリューパブというスタイルは製品がエンドユーザーであるお店のお客様のグラスに注がれるところまで最も確実に品質の保証がされている売り方だということになる。ビールの管理、提供する設備や備品はもちろん、豊富な商品知識とストーリーを伝える力を持つそういったお店は本当に魅力的だろう。しかし、私たちの場合はそうはいかず、一度出荷してしまったら、あとはその先の人たちを信じるしかないのである。そのために私たちの樽ビールの販売先へは、設備の有無はもちろんのこと設備の洗浄方法を確認してからでないと販売しないポリシーを創業以来守ってきた。

しかし、その後登場したボトルビールについては同じポリシーは通用しない。なぜなら、設備も洗浄方法も要求しない上に、携帯性に富んでいるので、一度手を離れた後は私たちが知り得ないところまで流れていってしまう。その先で、冷蔵保管されているか、賞味期限内に消費されているかなんてもちろん知る術はない。そういう理由で、ボトルビールを商品化した時は不安でいっぱいだった。しかし、同時に「どうしたら私たちの目的を達成できるか」、「私たちがこの人なら大丈夫と認めたお客様だけに商品を販売し、それ以外の人は商品へのアクセスすら制限されてしまうような状況で、本当に私たちは日本のクラフトビール業界にプラスに働きかけ、この業界を盛り上げられるのか」というジレンマを抱えた。品質を維持することに頑なになったが故に忘れかけていた、クラフトビールが容易に手に入る都市部の外に住んでいる人たちにも手軽にKBCのビールを手に入れられ、「やっぱり美味しいね」と喜んでもらえるという当初のビジョンはそれでも大事にしたい。いつかは決意しないといけない事だし、守りの姿勢になり過ぎてもいけないとはわかっていながらもやはり不安は不安だった。

そこで、エンドユーザーに理想的な状態のビールを届けるための最善策として、醸造所からの直送便に力を入れることになった。2020年の目標のひとつだった個人向けショッピングサイトの創設はそれを実現し、全国のクラフトビールファンの元へKBCのビールをお届けできるようになった。そんな矢先のコロナ禍で、樽商品の売り上げを大きく落とした私たちはボトルビールの商品数を充実させるなどし、これまでKBCのビールが行くこともなかった地域へも行き渡ることになったのだ。最近は想定以上の数の人が利用するこのショッピングサイトの利便性を高める取り組みのひとつとして6本単位でしか購入できなかった制約を取り払い、6・12・18・24本を好きなビールで詰め合わせられるアラカルト注文を可能になった。

この個人向けサイトの始動により、これまで容易にクラフトビールにアクセスできなかった地域の人々にもKBCのビールを直接手にすることが出来るという目標は達成できたのですが、日本のクラフトビールをまだ知らない人に知ってもらいこのシーンを盛り上げるという目標を達成するにはまだほど遠いと言っていいだろう。そこで、私たちはもうひとつ違う流通経路を模索し始めた。

ひとつは飲食店。これまで生樽を取り扱う為の空冷式サーバーという設備は持っていない多くの飲食店は、そもそもKBCを含む多くの無濾過ビールの導入が叶わなかった。そのお店の強みとする食事とのペアリングに、味わいのバラエティをもつクラフトビールは大手の薄っぺらいビールよりもよっぽど頼もしい存在であるはずだ。また、食事は家でゆっくり愉しむタイプの人には、持ち帰るためのボトルビールが売られている百貨店や酒屋さんは今日のお酒を選びにふらっと立ち寄るのに重宝されているのだろう。そうしたことを画策している最中、全国の市街地で良質な品物を中心に扱うスーパーマーケットとの縁があり、KBCのビールの販売が始まった。反応や実際の売れ行きは私たちの想像をはるかに超えて、大成功だ。どの店舗も通勤や買い物途中など通いやすい場所に位置しているため、ふらっと立ち寄るにはこの上ない場所でKBCのビールにアクセスできることになった。また、商品の陳列や説明などにも工夫に工夫を凝らされていて、KBCをはじめて見かけた人でもぱっと手に取ってしまうような彼らの丁寧で匠な仕事ぶりに私たちは驚いた。そして、それ以降少々マニアックな世界からあと一歩飛び出し切れていなかったクラフトビール業界が一気に市民権を得たような気がした。

やはり品質で勝負するからには、どこまでもこだわり始めたらきりがないのだが、絶対に譲れないものでもある。これを守りつつ多くの人の元に私たちのビールを届けるためにこれまで様々な取り組みをしてきた。クラフトビールにあまり理解の無かったお店が、品質に細やかな注意を払ってビールを扱ってくれているのを見た時、どれだけ嬉しかったか。こうしてこだわりがうまく伝え続けることで、周りは自然とサポートしてくれ、結果的にいい状態のビールを幾多の人々の元へ送り届けることができると私たちは確信しています。その一環として、京都やいくつかの街で信頼する業者さんたちと強い協力関係を結び、新しい流通網へのアクセスを始めた。「まずはビール」そのシンプルでありながら、私たちが創業いらい大事にしてきたビール優先主義をこれからも固持し、お客さまを決して裏切らない形でゆっくり広がっていけたらいい。そして将来、最初に思い描いていた通り、KBCを飲みたい気分の時に誰もがぱっとアクセスでき、気軽に楽しめる日が来るように2021年も進化を止めることはない。

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以上がAccessについてのお話ですが、更に次のポストでも私たちのビールがより身近に感じてもらえるようなもう一つのAccessのお話へと続きます。