私たちが今思うこと - Part2
国内の感染者数の増加はとどまることを知らず、緊急事態宣言と同じような不要不急の移動制限が全国に布かれつつあります。そんな中、世界ではワクチンの開発が急ピッチで進められ、接種も始まっている国があります。日本は来年の初春にようやく始まるとの報道がされていますが、これは希望を感じさせるひとつの兆しではないでしょうか。こういう話を聞くと、希望的観測の域を超えませんが、2021年になってようやく世界がかつての日常を取り戻し始めるのではないかと祈って止みません。
前回の振り返りで述べたように、コロナの第一波が日本を襲った今年の春、私たちは醸造所の倒産という起こって欲しくない事態が脳裏をよぎる程に大きな打撃を受けました。今回はその時どんな決断をしたのかという話を、創業からこれまでの5年間の振り返りを交えてお話したいと思います。
私たちが今思うこと
2015年に京都醸造を創業した当時、国内のクラフトビールは過渡期だったと思います。クラフトビールはそれまで一般的だった「地ビール」とは違うという認識を多くの人に持たれ始めたのはそのあたりからかもしれません。それは90年代中ごろにビールの製造免許の取得が初めて緩和されたあたりから地ビールと呼ばれるものが市場に溢れ、玉石混淆の状態になっていたところに意を決して飛び込み、消費者の”つまり、地ビールなんでしょ?”という既成概念と闘ってきたクラフトビール業界の勇気ある先輩達のおかげだと思います。彼らのビール造りへの情熱や消費者を納得させるための苦闘があったからこそ、私たちKBCは5年という短い歳月でここまで到達できたのでしょう。
創業者の3人は先駆者によってよく踏み鳴らされた道を沿うように醸造所を立ち上げることになったのですが、事業の過程が直線的であることから3人の意見の食い違いが起こることがありました。「施設・資材を購入する」、「人材を配置する」、「免許を取得する」、「醸造する」と順を追って完了させないといけないが故に、それに伴う3人の意見の相違を許容する余裕がほぼ無い状態でした。
私が見てきた成功している醸造所の多くはワンマン経営ではなく、直線的な事業プロセスを脱し、安易なゴール設定をするでもなく、やりたいようにやるというような姿勢も徹底的に排除しているように思う。それを実践しようとすると一見この上なく自由である反面、どこまでも挑み続ける姿勢を持っていないといけないでしょう。3人で共同経営しているKBCの場合、ゴールも掻き立てられるビジョンも3人それぞれに異なっているのです。ですので、意見の食い違いから思わぬ決裂を生んでしまう危険性もあります。
しかし、先日ひとつの傾向を発見しました。あるプロジェクトが始動する時に、私たちはこれまでの事業の傾向を踏まえ、徹底的に”なぜ?”、”誰が?”、”どこで?”、”どのように?”と自問自答を繰り返しました。すると、終始3人の意見が食い違うことなくうまく目標まで到達することができました。これらのシンプルな問いというのは、プロジェクトを円滑に実行するためにはとても基礎的なものだというのを実感しました。また、いかに私たちがそれぞれに違う意見をもっているものかを明確にするためには”なぜ?”という本質に迫る様な質問に勝るものはないということもハッキリしました。
一年が終わる頃、私たちKBCの創業者3人はその年の反省点について話し合います。そこでの内容からテーマを決め、明文化し、至らなかったことに対しての再アプローチを図るためにプロジェクトを計画していきます。2020年は”アクセス”というテーマを打ち立てました。これは、商品の仕様を多様化することで、より多くのお客様がKBCの製品を容易に手にすることができ、好きな時に好きな場所で楽しめるというビジョンを持って決めました。先に述べたように、”なぜ?”という問いはここでは登場しませんでしたが、ボトル入りの商品をどのくらい製造し、誰にどのタイミングで販売していくかという段階的な計画として慎重に進められる予定でした。
しかし、予期せぬ国内の感染症拡大により、プランは一旦仕切り直しになり、主力商品であった樽生ビールの需要が皆無になった状況を受け、すべての商品を瓶詰し、すべてのお客様に販売するという方針へ舵を切りました。”アクセス”というテーマの元すすめていたこのプロジェクトが結果的にコロナ禍のKBCを救うことになるとは当初はもちろん思いもしなかったことです。
道半ばだったすべてが急に前倒しになる状況のなかでも、優先順位を明確にし、周囲を信頼する(もちろんすべてをひとりで上手くこなすことなんてできっこないから)ことが、どんな未曾有の事態でも活きる教訓だと思います。コロナ禍において、私たちはなぜこの方法で進んでいるのかというのを強く問い、自覚する機会になりました。
次はKBCのルーツ、私たちをKBC創業まで駆り立てたビール、そして”なぜ”それらが創業のきっかけになったのかまでをお話したいと思います。
その2、読んで頂きましてありがとうございます。