Burnt Millとのコラボ - パート2

前回はこの英国の東、Suffolkという町にある醸造所、Burnt Millとのコラボレーションの話がどのように始まったかという話をしました。(前回の投稿はこちら)そこで、今回は私たちがBurnt Millを特別に思う理由と、彼らのこれまでの挑戦の数々にどのように自分たちを重ねて共感したかというあたりもお話したいと思います。ちょっと長いですが、ぜひビールでも飲みながら読んでもらえたら幸いです。

英国のクラフトビールシーンを遠く離れた日本からみると、それは一種羨ましさを感じさせるかもしれません。日本の半分ほどの人口を有する同じ島国で、日本の4倍ほどの数のクラフトビールの醸造所があり、大変活気づいています。そんな中で、ひときわ技術と品質、つまりビールの味の良さで強く支持されている醸造所のひとつに、今回のBurnt Millがあります。コラボレーションを進める中で、それぞれの醸造所がこのクラフトビール黎明時代において起業してからこれまでに経験した多くの出来事、その度に下してきた選択などについて意見交換をしていると、私たちと同じような困難やと悩みと向き合ってきたことがわかりました。例えば、年々加速するジューシーさやヘイジ―(濁り)がもてはやされ、ビール本来の苦味を敬遠する傾向にある市場に対して、自分たちが作りたいビールがどう折り合いをつけていくかという葛藤など。

Burnt Millは京都醸造が創業した年から2年後に、急激に成長する英国のクラフトビール市場の中で独自のビール造りを始めました。醸造所の数もうなぎのぼりに増えると同時に競争も激化し、彼らも想定以上の需要に追いつくためにひたすらに供給に徹した時期があるようです。市場は次第に濁ったビールを求める消費者と濁ったビールを造る醸造所でいっぱいになる中で、Burnt Millは自らのスタイルを貫きました。私たちがベルジャン酵母に惹かれてそれを使ったビールを造るように、Burnt Millのチャールズは近年のモダンなIPAに押されて影を潜めているが、10年前に流行ったウェストコーストIPAのホップに魅了されました。私たちと彼らの作るビールはスタイルこそ違えど、共通して大事にしているのは「バランス」。それはトレンドがはっきりしている今の市場ではあまり良く聞こえる言葉ではないかもしれないけれど、何よりまだ見ぬ味を求めて探求する醸造所には、1杯では味わい切れない面白さがあり、追いかけたくなる魅力があるのである。また醸造の面からみても、とにかく大量のホップで何とか味をそれっぽくしようという魂胆ではなく、偽りのない品質を追い求める姿勢が彼らにはありました。

とにかく、バランスのとれた美味しいビールを造るには、まず大量のホップではなく、腕のいい醸造家が必要です。それはレンガとモルタルがたくさんあったとて、いい家を作れるというわけではないのと同様、いい醸造家あっての美味しいビールなのです。Burnt Millが始動した時からチャールズの下で醸造責任者として携わってきたソフィーは、ある雑誌で”ビール界のベートーヴェン”と称されました。というのも、彼女はもともと小麦と大麦のアレルギーをもっていることから、ビールのテイスティングは出来ません。それでも14年以上この醸造の世界に携わってこれたのは、彼女の研ぎ澄まされた嗅覚。そこにチャールズはじめ他のメンバーのサポートが加わり、ビールが狙い通りの味わいに仕上がっているかを見極めるのです。

この醸造所のこれまでの道のりは遠いようで、しかし確実に多くの種が芽を出し、大きく育ってきたような印象です。彼らの幅広いラインナップの中でも特に、どこの醸造所よりも美味しいウェストコーストIPAを作るという評判も定着し、一旦過ぎ去ったブームですが、彼らをきっかけにこのスタイルに人が戻ってきているような印象さえ感じます。

巷でもてはやされている物事に純粋な興味を抱き、あるいは学びを求めて近づくことも大事だと思いますが、それ以上に新しい領域に足を踏み出す時でも確固たるアイデンティティを大切に持ち続けることに、より重要な何かが隠されている気がします。

話は今回のコラボに戻りますが、まず何を作るのかという時に京都醸造と言えばベルジャン酵母、Burnt MillならウェストコーストIPAという風に、それぞれの醸造所が得意なことを進めるのは比較的容易なことと思います。しかし、私たちのコラボの場合には、「新しいことを学ぶ」機会、またはその時に作りたいビールという意味も込めているので、どうせなら両方の醸造所がこれまで作ったこともないビールに挑戦してみようということになりました。その結果、選んできたのはイングリッシュビター。これを踏襲して、スペシャルビターとエクストラ・スペシャルビターに挑戦することになりました。「しかし、ホップはもちろん最新で人気のあるやつ使うんでしょ?」答えはノー。「っていっても、やっぱりヘイジ―?」この答えも”ノー”。「じゃあ2,3杯、するするっとひっかけたくなるやつ?」”イエス!”。

ミッション、達成!

今週、このコラボ作「New Worlds」が発売されました。英国のBurnt Millで作られたもう一つの「Other Worlds」が12月ころに輸入されて、いくつかのお店の店頭に並ぶそうです。楽しみですね!もし街で見かけたら、ぜひお楽しみください。