賞味期限日“Best Before Dates”のBestについて
今日は京都醸造のビールの”賞味期限について”少しお話をしたいと思います。
「まずはビール」というのは、私たちが京都の地でビール醸造を始めた頃から守り続けているモットーで、生産から販売に至るまでの数々の決断をするときの判断基準において私たちはビールを最優先するという考えが込められています。2017年に初めてボトルビールの製造を始めた時、まだ十分な経験と情報が揃っていなかったので、3種類の定番ビールには念には念をという思いで短めの「製造から60日」の賞味期限を設定しました。その後、製造の回数を重ねるにつれ、充填設備の扱いにも慣れ、品質の変化をみる官能検査を続けた結果、賞味期限を90日に延ばす決断をしたのが、2018年頃のこと。
ありがたいことに次第に京都醸造のボトルビールが認知され、大きく需要が伸びたことで、いよいよこれまで使ってきた同時に2本しか詰められない小さな充填機の限界を迎え、より短い時間でたくさんの充填を行うことができる設備への転換を迫られることとなりました。そうした状況をうけ、私たちはかねてから頭の片隅にあったアルミ缶容器の利点を考え、ボトル商品を止めて缶商品の製造へ大きな仕様変更をする決断をしました。これは、ただ製造量を増やすということだけでなく、無濾過非殺菌のデリケートなビールの品質を保ちながら、新しい仕様に変えるということで大きな試練だったといえるでしょう。もちろん「まずはビール」という考えが根底にあるので、何があっても品質を落とすわけにはいけません。仕様変更の準備を慎重に進めているそんな矢先に、コロナウィルスの影響による市場の急激な変化がありました。これに対応するため、飲食店への樽販売が中心だった従来のビジネスモデルから小売りを対象とした缶商品をメインに製造・販売する方へ一気に舵を切ったことで、なんとか荒れ狂う嵐を凌いで、命からがら生き延びたような状態でした。この変化により新たな取り扱い店も増え、より多く方に京都醸造の商品を手に取ってもらえるようになった反面、商品の取り扱い易さ、特に賞味期限の長さに対するお店からの要望に応える必要が出てきました。
私たちが取り組んだこと
市場の状況やニーズに応えるように商品の賞味期限も合わせる、というのはシンプルで合理的な解決方法なのかもしれません。しかし、「まずはビール」の私たちにとってはそう簡単にいくはずがありません。品質を犠牲にすることは何があってもあってはならないので、私たちはボトルビールから缶に仕様がかわってからも、これまで通り官能検査をつづけてきました。
そしてボトルビールの賞味期限を決めた時の品質指標を缶でも適用できるかを判断するために、基準値を改めて明確に定めました。溶存酸素(Dissolved Oxygen)の量というのがビールの賞味期限を定める時に最も影響する要素の一つで、ボトルビールと缶それぞれに充填した場合を比較した結果、缶でもボトルと同じ90日期限からトライできることがわかりました。
その後、6ヵ月間の10回の定番ビールの仕込みで約50回の官能検査を行い、先述の溶存酸素検査と従来の検査を合わせることで、製造後の缶内部での変化をより正確に把握できるようになったのです。また、同時にこのデータに基いて、工程を改良することで製造、充填の際に入る溶存酸素量をさらに抑制することができました。
ここまでやる理由
理由はいくつかあります。その一つは、賞味期限がより信頼性の高いものであればあるほど、お客様に安心してビールを楽しんでもらえると思うので、私たちが品質に自信をもてる期限を設けたいと考えています。また、このことが重要なのは賞味期限がいつなのかを伝えるだけではなく、いつ製造されたということまで伝えたうえで購入してもらいたいと考えています。
次に、私たちはお客様の声には可能な限り応えていきたいと思っています。ボトルビールを製造し始めた頃、期待して心待ちにしてくれていた飲食店のお客さまでも賞味期限が90日であることを知ると、やはり取り扱うのが難しく、ハードルが高いなぁとなっていました。その時、もし賞味期限を長くできたらというこの声に応えられたら、取り扱ってくれる場所も増えるでしょうし、今以上に京都醸造のビールを街で見かけるようになると考えました。
もう一つ理由を上げるとすれば、この短い賞味期限の影響でこれまでたくさんのビールを捨ててきました。具体的に数をあげると2020年の7月以降、約9000本のボトルと缶を泣く泣く廃棄しました。そのほとんどは私たちの品質に関するデータの不足や賞味期限への注意不足が原因で、まだまだ味は美味しいんだけど、期限が過ぎたことで商品価値はゼロになり、廃棄せざるを得なかったのです。チームで力を合わせて造り、パッケージされ、運ばれて、店頭で販売されるという流れでたくさんの人の手がかかったビールをやむなく捨てるということは言葉にできないような痛みを感じます。ですので、ビールに合わせた相応しい賞味期限を設けることで今後、廃棄される量も大きく変わってくると考えます。
すべては美味しいビールを美味しい状態でお客さまに召し上がってもらうために、私たちはこれからも「まずはビール」でビール造りに取り組みます。
賞味期限が変更される商品
一期一会 製造日より5ヵ月
一意専心 製造日より4ヵ月
黒潮の如く 製造日より4ヵ月
いつから変更される?
2021年10月11日に製造した一期一会(#585)よりすべての定番商品が上記の賞味期限に変更されます。
※ 一期一会(#573、#581)、黒潮の如く(#575)についてはそれ以前に1ヵ月の賞味期限延長を実施していました。
今後のこと
ひきつづき定番商品のモニタリングは継続し、もし十分に品質を担保できるというデータが揃えば、再度賞味期限の延長をかなえられると思います。その前に、他の限定商品、とくにホップの味わいを特徴とするビールをターゲットにしたいと考えています。ホップの香りや味わいは溶存酸素の影響を最も受けやすいということもあり、まずホッピーなビールが賞味期間いっぱいにベストな状態を保てるように努力していきたいです。その次に、季節限定の気まぐれシリーズや毬子、毬男、週休6日のような登場頻度の高い限定に着手していきたいと思います。