気まぐれシリーズのアップデート
季節限定の気まぐれシリーズは、京都醸造の数あるシリーズの中で最も長く取り組んできた限定醸造です。初期の頃は、まだシリーズという体系化ができておらず、定番ビール以外はざっくりと「限定醸造」として、その時に空いているタンクを活用して即興的に仕込むということが多かったのですが、唯一存在した「気まぐれシリーズ」には明確なコンセプトがありました。前者の方が”気まぐれ”で、気まぐれシリーズの方に明確なコンセプトがあるというのに、矛盾を感じさせてしまいますが、詳しくはこれから説明します。
これまで度々言及してきたことですが、今でも京都醸造は「ベルギースタイルのビールを造る醸造所」とよく認識されています。しかし、実際には私たちはベルギースタイルだけでなく、常に多様なスタイルのビールを造ってきました。それは、働くメンバーの国籍がさまざまであることのように、私たちが造るビールのスタイルも幅広く、ビールの魅力のひとつである多様性を表現してきました。定番ビールはすべて、ベルギーのハウス酵母を使用していますが、それ以外の要素はというと、アメリカ、ヨーロッパ、ニュージーランドはじめ、世界各地のホップを取り入れるなど、多彩なアプローチを取ってきました。
話は気まぐれシリーズに戻りますが、このシリーズのビールは、ベルギースタイルではありません。私たちにとってベルギーのビール文化は大きな影響を与えた存在でしたが、それと同じくらいアメリカのクラフトビールシーンも重要な存在です。アメリカのクラフトビールは、世界中にクラフトビールのムーブメントが広がる大きな原動力となり、私たちもその影響を強く受けました。京都醸造が創業した年、定番ビール以外はすべて単発の限定醸造でしたが、唯一の例外がこの「気まぐれシリーズ」です。
では、このシリーズの何が特別なのか?
それは、シリーズコンセプトが単発で終わらせるには惜しいほど魅力的に感じたというのが挙げられます。日本には四季があり、それが食材に旬を生み、求める味覚の変化を造ることから料理にその特色が色濃く表れます。シェフがその日に市場で見つけた旬の食材を活かし、「今日のおすすめ」や「シェフの気まぐれ料理」として創造的な一皿を生み出すように、私たちも季節に応じたビールを自由な発想で造ることができないかと思い、「気まぐれシリーズ」は誕生しました。このシリーズでは、その折々の季節に合うように、モルトやホップといった原材料をじっくりと見つめ直し、最適な組み合わせを模索します。
日本の四季はとても明確で、冬は寒く、夏は暑い、そしてその間の春や秋は季節の移ろいを感じさせるだけでなく、穏やかで心地よく、美しい。そこで、このシリーズでも各季節に合わせたビールコンセプトを決めました。
春:
至る所で生命が芽吹き、始まりを感じさせる季節でありながらも、まだ肌寒さの残る春に合わせて、しっかりとしたモルトの土台を持たせつつ、ホップの爽やかな苦味も効かせたクラシックでクリーンなウエストコーストIPA
夏:
爽快感を最大限に高めたセッションIPA。苦味を抑えつつアロマを強調し、低めの度数なので、暑い日にするするとたくさん飲んでも、酔わずに楽しめるビール。
秋:
徐々に気温が下がり始め、空気が乾燥し始める秋には、モルト感がしっかりし、味わい深さを感じさせるレッドIPA。ホップの苦味も少し強めにし、やや赤みがかった色合いで季節感を演出。
冬:
たっぷりの小麦と柑橘のアロマが際立ったホップを効かせたホワイトIPA。冬に柑橘類がたくさん登場するように、フワッと香るフレーバーに冬らしさを感じさせる。
このように、年4種類の異なるIPAを通して四季の移ろいを感じることができるように、このシリーズはデザインされています。
ビールコンセプトは同じですが、レシピは毎年”気まぐれに”変更を加え、醸造家のその時の好みや創造力、また新しく登場したホップの品種の取り入れるなど、常に変化と進化をし続けてきました。いわゆる老舗と呼ばれる歴史のあるお店でも、少しずつ味を変えることで、何十年、何百年と人々の味覚を楽しませ続けてきた、という話を聞いたことがあります。おそらく、このシリーズが多くの方に支持されて、今まで続けられてきたのも、変わらない物の中に変化や発見があるというのも理由のひとつなのかもしれません。
私たちは現在、これまでの多くのビールのレシピを見直し、大胆なアップデートを行っています。これは使用するホップの方向性の変化、そしてヘッドブルワーのジェームズの加入による部分も大きいですが、この「気まぐれ」シリーズにも改良を加えました。
経験豊富なジェームズの知識や技術を活かし、従来のレシピを下敷きにし、ホップの特性を最大限に引き出す新たな技術を取り入れたり、産地から直接仕入れた新鮮なホップを使うなど、これまで以上に魅力的なシリーズになるように改良しました。
また、このシリーズの本質、季節感をよりよく表現するために、デザインも刷新しました。ビールの方向性と同様に、これは元の状態がわからなくなるような「革命」というよりは、時代や技術、本質を突き詰めた結果を反映する「進化」と呼べるようなアップデートですが、皆さんもこの新しくなった「気まぐれシリーズ」を手に取っていただき、「なるほど、納得!」と魅力的に感じてもらえたら嬉しいです。